きたやまおさむ氏

2024年4月10日付 810号

 6面の記事に書き切れなかったきたやまおさむ氏の話。元々はカントリー・ミュージックをしていたが、大学時代に加藤和彦と出会い関西フォーク・ブームの火付け役の一人となった。デビュー曲の「帰って来たヨッパライ」は解散するつもりで300枚だけ作り、知り合いに配ったりしたのが東京でブームになり、283万枚も売れて引き返せなくなったという。
 その加藤和彦が2009年、軽井沢のホテルで自殺してしまった。きたやま氏は「食い止めねばならなかった医師として、友人としては、実に無念である」との追悼を寄せている。「むなしさ」を研究し、治療してきた精神科医としても断腸の思いだっただろう。
 フォーク・クルセイダーズの「悲しくてやりきれない」では、サトウハチローの作詞で「この限りないむなしさの 救いはないだろか」と歌い、宗教との接点を感じさせる。「むなしい」の語源は「みなし」で、「み」とは身や実、味のこと。中身がない、意味がないという状態を指し、そこから派生して、価値がない、本質的なものがないとなったという。
 それに対して「おもしろい」の語源は、柳田国男によると「面が白くなる」。昔、語り部がいろりを囲んで話をしていると、おもしろい話に聞き手が思わず顔を上げ、その顔が火で白く輝いて見えたことからきたという。縄文時代からの口承文学の一シーンである。
 むなしさも面白いと思えば意味が生じる。まずはどうしてむなしいと思うのかから考えてみよう。それがむなしさを味わうことになる。