秩父神社で伝統の御田植神事

田植えの所作で豊作祈る

秩父神社の境内で「田打ち」の所作をする作家老と神部たち=4月4日、埼玉県秩父市の秩父神社

 4月4日、埼玉県秩父地方の総鎮守・秩父神社では、武甲山の神様を迎えて豊作を祈願する「御田植神事」が斎行された。しめ縄が張られた境内を神田に見立て、表の鳥居を水口に見立てる龍の形の稲わらが巻き付けられた。
 埼玉県の選定無形民俗文化財に指定されている御田植祭に奉仕するのは、秩父神社御田植祭保存会の会員たちで、高齢者から青年まで幅広い世代で構成される。40年以上前から作家老を務めている浅見弘氏をはじめ、神部たちは伝統の所作を元気に威勢よく、ユーモラスに演じていた。
 午後1時、薗田建(たける)宮司以下神職・作家老が本殿に昇殿し、社殿前の神部たちと「御田植祭」を斎行。神前には、昨年の新嘗祭に供えられた抜き穂のもみ1升2合が供えられ、豊作を祈念する祝詞が奏上された。玉串を奉奠の後、山の神(水神、龍神)の依代である水麻を宮司が取り出し、大澤孝禰宜から作家老に手渡された。
 午後1時半、水乞いの御神幸行列が今宮神社に向かう。神職に先導され、笛と太鼓などの楽士が伝統の音色を響かせながら、水麻を掲げた作家老と竹で作った鍬を担ぐ神部たちと市内を練り歩き、10分ほどで今宮神社に到着した。
 水分神事の後、今宮神社の神前で水の恵みを宿した水麻を掲げた神部ら一行が秩父神社に戻ると、作家老は水麻を田の水口をかたどる「藁の龍神」の口に刺す。すると、境内の敷石に龍神様の御神霊が行き渡り、そこは一面の水田となった。
 午後4時、御田植神事が始まり、菅笠・白装束の神部たちが神社境内の敷石を水田に見立てて田仕事の所作を順番に行う。「苗代づくり」では、まず「田打ち」の所作が行われた。「御代の永田に手に手を揃えて、急げや早苗~」と「田植歌」を歌いながら、作家老を先頭に鍬を振り下ろす。次に「くろぬり(畔ぬり)」で、神部は鍬で土をかき揚げ、張り付ける所作をした。

市内を練り歩く水乞いの御神幸行列=秩父市本町交差点付近

 次は馬による「代掻き」で、神部2人が鼻取竹(馬)の両側を持ち、後ろから神部がササラで馬を叩き、走らせる。馬の役の若い神部は力強く暴れ馬を彷彿させる所作で演じ、周りから歓声が沸き起こっていた。そして、神部が鍬を振りながら「田ならし」をし、作家老と神部一人が籠に入れた種もみを苗代にまく「種籾まき」を行った。種もみは昨年の秩父夜祭で大前に供えられたもの。
 続いて「本田づくり」で、再び「田打ち」「くろぬり」があり、「肥料まき」では「カッチキ(刈敷)」と呼ばれる切り藁が敷き込まれた。「代掻き」「田ならし」に続いて、いよいよ「田植え」。神部たちは後ろ向きで苗に見立てたわらを植え、一つ一つ苗を植えている所作を丁寧に演じていた。最後に、秋の収穫を示す「餅まき」では、作家老と神部たちが無病息災・開運招福の餅を見物客に配った。
 ユネスコ無形文化遺産に登録されている12月3日の秩父夜祭では、水口の藁の龍神が大真榊を立てる榊樽に巻き付けられ、御神幸行列の先頭を進む。夜祭は豊作をもたらした「お水」を武甲山の山の神に返す、新穀感謝の祭り(新嘗祭)でもある。春の水分祭・御田植祭で始まる水の恵みが一巡し、秩父は無事に新たな年を迎える。