東昇先生
2023年4月10日付 798号
京都国立博物館で親鸞聖人展の内覧会があった午後、市バスで四条大宮に行き、嵐電に乗り換え宇多野へ。途中、鳴滝駅から宇多野駅の間は線路両側にソメイヨシノが咲き並ぶ「嵐電桜のトンネル」で、運転手の後ろに陣取り、動画を撮ってSNSにアップした。駅で迎えてくれたのは、メカトロニクス系のエンジニアでありながら、親鸞や法然、道元の著作がある岡村貴句男さん。近くに自宅がある。
学生時代に禅に興味を持った岡村さんが『歎異抄』を知ったきっかけが、当時、京大ウイルス研究所所長だった東昇(ひがしのぼる)先生の講演だと知り、偶然の出会いに驚いた。東先生は天地子も忘れられない人で、1967年から天地子が仲間と京都市内で開いていた市民講座に講師として招いて以来、親しくお付き合いしていた。天地子の1歳上の岡村さんが東先生の話を聞いたのはその講座かもしれない。以後、岡村さんは東ゼミを立ち上げ、先生の没後も続けた成果を『実存と信仰~親鸞思想の構造解明~』(文芸社)という大著にまとめている。
鹿児島生まれの東先生は母が熱心な隠れ念仏の方で、『お念仏とともに 父・東昇を想う』(探究社)を書いた娘の藤井雅子さんによると、東先生は「胎内にいる時から母親のお念仏を聞いて育ったんだよ」と語っていたという。岡村さんは藤井さんに資料を提供しており、同書を再読すると岡村さんのことも書かれていた。この頃、若かった日々をなぞることが多くなり、年を取るとはこういうことなのかと思う。