天香さん生誕150年「春の集い」/一燈園

新渡戸涼恵師が講演と歌

西田多戈止当番

 京都市山科区に拠点を置く生活共同体・一燈園(西田多戈止当番)は4月16日、「春の集い」を開いた。今年は一燈園創設者の西田天香師の生誕150年でもある。午前の開会に先立ち司会の谷野寅蔵氏は、昨今のコロナ禍及びロシアのウクライナ侵攻によってもたらされた地球への被害に心を痛め、「地球に感謝とお詫びの黙祷」を提案し、参加者全員は頭を垂れた。
 開会の挨拶で西田当番は、ロシアによるウクライナ侵攻について、プーチン大統領は「ベルリンの壁崩壊」を当時KGBの要員として現地で経験し、またソ連邦の解体を原体験として持っているので、「ロシアの威信」を取り戻そうとしているが、プーチン自身の考える正義と民主主義世界の考える価値観との衝突を解決しなければならない、と話した。
 続いて小野八幡宮(兵庫県神戸市)の権禰宜である新渡戸涼恵(すずえ)師は、「目に見えないチカラに導かれて〜浄明正直〜」と題し、歌を交えながら基調講演を行った。一燈園では2年前から新渡戸師を招待しようとしていたが、コロナ禍によりようやく今年、予防策を講じた上で実現となった。
 新渡戸師は、自身がブラジルで生まれ育ち、見えない力に導かれて神職となり現在、神職としてのお勤めだけでなく言葉と歌によってメッセージを発信していることを紹介した。新渡戸師は、著書『武士道』を書き国際連盟事務次長も務めた新渡戸稲造の縁戚にあたり親族には仏教者やクリスチャンも多く、日頃宗教の和解の必要性を肌で感じているという。
 かつて新渡戸師は、国連本部で年に何回か、唯一の神道家として宗教家たちのブリーフィングに参加し、テーマごとに一分間の祈りを捧げるミッションを行ってきた。その場で諸宗教は、教典の一節や始祖の言葉に基づいてスピーチしていたが、神道は特別の経典・開祖をもたないので、龍笛の一吹きなどで祓い清めてからスピーチし、五感でメッセージを伝えるようにした。異なる宗教間の対話により、相手を尊重することで生まれる豊かさに気付いたという。
 また新渡戸師は、自身が勤める小野八幡宮にある御神木のクスノキを切らざるを得なくなった時、悩んだ末に木を活かす方法を考え、床柱や白木の鳥居、あるいはカリンバ(アフリカ由来の楽器)にし、形を変えて生き続けるようにしたという。そして、地鎮祭の日には自分の髪を50センチくらい切り、「私が行ってくるからね」という想いを込めて地面に埋めたという。このように自然を活かし、自分も自然の中に溶け込む感覚をメッセージとして伝えていきたいと話した。

新渡戸涼恵師


 新渡戸師は、言挙げ(情報発信)は、教典がない神道で、体験や文化、教えが風化するのを防ぐために必要だという。また、木を切るか切らないのかという二者択一ではなく、「括り、調和、和合」の精神を神道では求めたいと話した。そして、神職の女性たちは、神様と人、自然と人の「中執持(なかとりも)ち」ができるはずだという。
 午後、新渡戸師は歌手の涼恵氏として、トークを交えながらミニコンサート“花の祈り”を開き、自身で作詞作曲したオリジナル曲や日本の童謡などを熱唱し、神職として日々感じることを語った。曲は、聞く人の魂を静かに震わせるようなオリジナル曲、日本古来の素朴な童謡、異界へのくぐり戸を抜けるかのように編曲された「通りゃんせ」など。
 全国から参加した一燈園の関係者たちは、郷愁を誘う涼恵氏の童謡や自然と共に生きたいとの願いが込められたオリジナル曲などを堪能した。