美術・企画展「ご宝物に宿るいのち」明治神宮ミュージアム

 明治神宮の境内に御祭神である明治天皇と昭憲皇太后のゆかりの品々を保存・展示する為に建てられた明治神宮ミュージアムでは、4月9日㈯から6月19日㈰まで「ご宝物に宿るいのち」展が開催されている。
 同展では明治天皇・昭憲皇太后おゆかりの品を中心に、動植物をモチーフとした作品が展示され、子供連れから年配の方々まで楽しんでもらえる内容となっている。豊かな自然と四季に恵まれた日本では、動植物が美術工芸品の題材とされ、宮中で用いられる装束や調度品にも動植物の意匠を取り入れたものが数多くみられる。
 ミュージアム2階の宝物展示室(常設展)には今回の企画展の作品も展示されている。「燕尾形御正服・御雨帽」はその一つで、明治5年(1872)の明治天皇の九州・西国地方巡幸の際に着用された正服。この時に明治天皇は、初めて民衆の前で行幸という形で姿を現した。上衣の襟から胸部とそでには菊、背面には鳳凰の金刺繍、韮山型の御雨帽の両面にも鳳凰の刺繍が施されている。また、「憲法発布式行幸用八頭立公式御馬車原図」は「六頭曳儀装車」を精密に描き写した図で、当時宮内省主馬寮主馬助を務めた川上鎮石の旧蔵品。その後、娘婿である宮内省御歌所勤務の千葉胤明に受け継がれた。8頭立6頭曳で、鳳凰の咥える菊の枝や内部装飾まで細かく描き込まれている。

明治天皇御料《燕尾形御正服・御雨帽》

 企画展示室に大きく展示されている「十二ヶ月禽獣図屏風」は、絵画のように見えるがよく見ると染織品で、友禅染で描いたものに刺繍を一部施してあり、「美術染織」と呼ばれる作品。馬の部分は馬具の部分が金糸または銀糸で刺繍され、立体的になっていて、京都の老舗の染織業者「千總(ちそう)」の十二代西村總左衛門が製作した。下絵や表層の金具も京都の職人によるもので、京都の職人の総合芸術とも言える。

明治天皇御料《十二ヶ月禽獣図屏風》十二代西村總左衛門

 「御好黒塗花紅葉折枝蒔絵御箪笥」(おこのみくろぬりはなもみじおりえだまきえおんたんす)は明治天皇のお気に入りだったといわれる箪笥で、崩御の時まで使用されていたもの。意匠は八重桜ともみじで、同作のもみじには花が咲いており、春の意匠であると考えられる。

明治天皇御料《御好黒塗花紅葉折枝蒔絵御箪笥》

 明治天皇は物を捨てずに再利用するという現代のエコやリサイクルにつながるご発想をお持ちになっていた。「鵞鳥卵蒔絵附御盃」は明治天皇御親(みずか)ら製作の発案をした鳥卵を利用した盃である。「ジャボン製御菓子器」の製作の際も、中身は果実に砂糖をかけて女官さんに賜ってから、お作りになられたと伝えられている。「毛植の犬」は愛くるしい子犬を象った毛植細工の人形で、張子状の本体に、縒(より)をかけない一本の絹糸を丹念に貼り付けたもの。主に端材となった糸が用いられたとされ、宮中の物を大切にする精神が感じられる。贈答品としたり、ひな人形とともに飾り、親しまれた。

明治天皇御料《鵞鳥卵蒔絵附御盃》

会期:令和4年4月9日㈯から6月19日㈰まで(休館日、木曜日。但し5月5日㈷は開館)
開館時間:午前10時から午後4時半まで(入場は閉館の30分前まで)
お問い合わせ:03-3379-5875