お松大権現の猫伝説

2022年3月10日付 785号

 トラはネコ科なので、猫伝説のある徳島県阿南市加茂町のお松大権現にお参りした。鳥居の横で、大きな招き猫が出迎えてくれる。拝殿の前には二匹の狛猫が、首にお札のレイをかけ、おとなしく座っている。拝殿の中は、それこそ猫尽くし。裏手に回ると、大きな猫大仏から猫不動まで、いろいろな姿と表情の猫が祀られていた。
 「猫神さん」と呼ばれるお松権現の由来は次のよう。江戸時代に加茂村の庄屋が不作続きの村を救おうと、五反の田んぼを担保に近在の富豪に金を借りた。返済期限近く、庄屋は富豪に金を返したが、通りがかりだったので、証文は返してもらえなかった。
 間もなく庄屋は病死したので、妻のお松は富豪に証文を返すよう頼むが、返さないばかりか、金は受け取っていないとし、田んぼまで没収された。
 思案の末、お松は奉行所に訴え出るが、美人のお松に食指を動かした奉行は、富豪から袖の下を受け取り、非道な裁きを下す。
 意を決したお松は、行列する藩主に直訴したが、直訴の罪により処刑された。お松が愛猫に遺恨を聞かせていたことから、その後、富豪と奉行の家に化け猫が現れるようになり、両家は断絶した。
 この伝説から、勝負事に利益があるとなり、最近では受験生が合格祈願にお参りするようになったという。犬とは違い、自分なりに生きる猫は、それなりに面白い。この4月には、物語を描いた施設ができるというので、再訪しようと思う。