自治会

2020年5月10日付 763号

 天地子が暮らす自治会の名前は天王で、小高い山の上に「お天王さん」と呼ばれる小さな神社がある。自治会名は、そこの御祭神、牛頭天王に由来している。日本のスサノヲと習合した疫病退散の神で、同じ名称の地域が日本各地にある。
 里の田んぼの中には、隣の商店もある自治会と一緒にお祀りしている八坂神社があり、8月終わりには秋祭りで賑わう。昔は境内に露店が並び、浪曲や講談まで催されていたが、今は子供向けのイベントやカラオケ大会をするくらいで、集まる人も少なくなった。今年、自治会長になったので催しの企画を立てないといけないのだが、もしかしたら、宮司に自治会役員だけでのお祭りになるかもしれない。
 天王社、八坂神社に疫病退散のご利益があることはほぼ忘れられていて、残っているのは地域の連帯性。拝殿の壁には、社殿建設に寄付した祖父や父の名前が書かれ、歴史を感じる空間になっている。長老の中には父のことを知る人もいて、懐かしそうに思い出話をしてくれる。
 農作業の機械化で、寄り集まっての田植えなどの共同作業がなくなり、農村でも個人化が進んだが、近年は経済性や後継者の問題で、農事組合法人による共同作業が復活している。母の介護のためUターンした天地子もそれに参加し、新しい暮らしが始まった。そんな個人的な歴史からも、人は変わるし、社会も変えられると思う。

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