万葉集の豆

2019年5月10日付 751号

 令和の出典でにわかに人気が出ている万葉集に、豆を詠んだ歌が1首だけある。「道の辺の茨(うまら)のうれに、延(は)ほ豆の、からまる君をはかれか行かむ」。道端のうまら(ノイバラ)の先に絡みつく豆のように、私に絡みつく君をおいて別れゆく…という意味。天平勝宝7年(755)2月に、上総国(かずさのくに)の防人を引率する役人の茨田連沙弥麻呂(まむたのむらじさみまろ)が進上したとされる、防人に選ばれた丈部鳥(はせつかべのとり)が、「行かないで」と絡みつく妻との別れを悲しむ歌。令和の基になった梅の花の下での歌会は、唐侵略の危機が去り、防人が不要になった時代に催された。
 万葉集に出てくる豆は野生のもので、野によく見られるカラスノエンドウかもしれない。そう思うのは、ここ数日、天地子は小麦畑のカラスノエンドウ抜きに悩まされたから。熟すると黒いさやからはじける実が小麦に入ると、等級が落ちてしまう。多すぎると、金のかかる色選機に掛けなければ出荷できない。
 除草剤は散布したが、時期が遅かったらしい。土地が悪く、穂の薄い田んぼほど雑草が繁茂しているので、無駄な汗を流す思いにもなる。
 そんなときこそ、これも修行だと、長く単調な作業に思いを込める。雑になると、自分の心を荒らしてしまう。健康長寿のための農業だと考えてもいい。しかし、5年、10年後にはどうなるのか。平均年齢が70代半ばの仲間のぼやきは絶えない。