人を育てる社会づくり

2018年2月20日 731号

 韓国の平昌五輪では羽生結弦選手の連覇、金メダルの小平奈緒選手が銀メダルの李相花選手を抱きしめる場面など若者たちの活躍が日本中を感動させた。
 国内では、半世紀続いてきた減反政策が今年廃止される。補助金を出して過剰な米作をやめたり、他の作物に転換させたりするのが減反で、去年までは毎年、地域ごとに農家がその調整をしていた。今年からはその規制がなくなり、作りたい人は好きなだけ作ってもよくなる。
 政府が減反廃止を決めた直接のきっかけはTPP(環太平洋パートナーシップ協定)で、海外から輸入される安い米に対抗するには、農家を集約化してコスト競争力を付ける必要があるからだ。農家にはこれまで以上の創意工夫が求められている。

学校教育が変わる
 学校教育も大きく変わろうとしている。二〇二二年度から順次実施される高校の学習指導要領の改訂で、記憶力よりも思考力や判断力、表現力が重視されることになるからだ。そのキーワードがアクティブ・ラーニングで、主体的・対話的なやり方で深い学びの実現を目指す。
 明治維新から百五十年を経過して、日本にはもはやかつてのようにモデルとする国がなくなった。むしろ、各国のモデルになるような、独自の国づくりが求められている。自分自身で問題を発見し、目標を設定していかなければならない。そうした人づくりから新たな取り組みが教育界で始まろうとしている。
 高校学習指導要領案では、例えば地理歴史では、日本史と世界史を融合した「歴史総合」と、国際理解を深める「地理総合」が新設され、いずれも必修科目となる。グローバル化の時代だからこそ、日本人としてのアイデンティティーが重要になるのに、現状では日本史を選択しなくてもいい高校が多い。さらに、古代から順番に教えていくので、肝心な近現代は授業が駆け足になってしまう弊害があった。大学入試の改革も同時並行で進められなければならないのは当然である。
 選挙権が十八歳に下げられたのに伴い、若者の政治意識を育む必要から注目されているのが「主権者教育」である。選挙に行くだけでなく、身の回りの政治に参加し、主体的に社会を変えていく力を育むことが求められている。
 少子高齢化で生産年齢人口の減少は避けられない。それでも経済成長を維持するには、生産性の向上が必要であり、そのためには一人ひとりが成長する仕組みが社会になければならない。学校だけでなく職場や地域で、人間の成長を尊重し、評価し、促すような文化を醸成すべきである。
 高齢化社会でも健康寿命の人が増えれば、彼らが社会を支えることができる。人間の脳細胞は九十歳を過ぎても新生されるし、成長し続けることで生きがいを獲得することができる。アップルが開催している開発者イベントに、サプライズゲストとして招待された八十二歳の若宮正子さんは、八十歳でプログラミング言語を学び始め、人気のアプリを開発した。そんなことが可能になったのが今のIT社会なのである。
 安倍政権が進めている働き方改革も、要するに一人ひとりが幸せになる社会づくりであり、生き方改革である。どこかの国のように、少数の支配者が大多数の国民を犠牲にするような社会は、早く過去の遺物にしなければならない。

人を育てる宗教に
 人間を超えた存在を想定する宗教は、歴史的に人を育てる仕組みを開発してきた。自分を超えた存在との関係性を意識することで、心が自由度を増し、成長への意欲が高まる。五百年前の宗教改革は、宗教が個人を支配するのではなく、個人が自分の良心に基づいて宗教を選択する時代を拓いた。それはキリスト教社会だけでなく、他の宗教の社会にも影響を及ぼす普遍的な価値となっている。
 そもそも人は自分の成長を感じるときに、最も本質的な喜びを感じる。自分がそうであるなら、人にもその喜びを分かち合えるようにすべきであろう。人が共に成長し合う、それを喜び合う社会を実現したいものである。その第一歩が私たちの周りにあることは言うまでもない。