神道国際学会主催の国際神道セミナー
「宗教と伝染病」について再論
特定非営利法人神道国際学会の主題で、第25回国際神道セミナー「神々と伝染病Ⅱ」が3月9日、関西大学東京センター(東京都千代田区)で開催された。首都圏での緊急事態宣言延長がなされる中、前回と同じテーマで、日本の伝統的な宗教と疫病とのかかわりやコロナパンデミックが宗教界に及ぼした影響などについて、3人の研究者が発表し討議が行われた。
三宅善信同学会理事長は開会挨拶で、これまで幾度か伝染病の蔓延と大震災被害が関連して起こってきたわが国の歴史に触れながら、セミナーの趣旨を説明し発表者を紹介した。また、10年目を迎えた東日本大震災の犠牲者に追悼の意を込めて一同で黙祷を捧げた。
最初に東京大学大学院人文社会学系研究科の西村明准教授が「衛生と信仰のはざまで―近代日本宗教史に学ぶ―」と題し講演。モデレータは東京工業大学の弓山達也教授。
宗教民俗学が専門の西村准教授は、佐賀県唐津にある増田神社の信仰実践に焦点を当てて、民間信仰と衛生観念を考察した。
日清戦争終結後、帰還兵を通してコレラが流行し、唐津市大串でも多数の患者が出た。衛生知識を持つ増田敬太郎巡査が同地に赴任し、不眠不休で対策に努めたが、彼もコレラに感染し、「高串のコレラは私が背負っていきますからご安心ください」と言い残して3日後に死亡。コレラが終息して1年後、住民は感謝と敬意を表して神社を建立、「巡査大明神」として祀り、増田神社は疫病の守り神となった。大正期には警察関係者の注目を集め「警察神」として顕彰され、戦後は人類愛の権化として再評価されるようになる。
西村准教授は、昭和41年に開かれた地元住民と増田巡査の出身地熊本の人たちとの座談会資料に注目。熊本県の医師内田守氏による『巡査大明神全傳』に収められた、座談会の発言を例にとり、純粋な信仰の住民の立場と、迷信や民間信仰と衛生を切り離そうという立場とがあるのを見出す。この相克を、近代日本宗教史における「民間信仰」の概念の変遷を通して、どう位置付けるかに論及した。
伝統的組織宗教が近代化を模索する中で、民間信仰を非合理的な迷信として排するのではなく、民心を統括的に教化するエネルギーとして肯定的に摂取すべきではないか、とまとめた。
次に、大正大学地域構想研究所・BSR推進センター主幹研究員で東京医科歯科大学非常勤講師の小川有閑氏が、同センターが昨年5月、12月に実施した寺院向けWEB調査の結果を踏まえ『コロナ禍が寺院にもたらす影響』について発表。葬儀の実施状況や法要に関する相談状況、寺院でのイベントの開催、法務や寺院経営に対する不安、コロナ禍の状況をどうとらえているか、など総合的なアンケートを収集し①全国と東京②首都圏と関西圏で比較考察をした。その結果、葬儀、法事の規模縮小は全国的だが東京は簡素化が顕著。オンライン化が進む中で、檀信徒への「お便り」など紙媒体の価値が再発見された。対面が困難な中でこそ菩提寺からコミュニケーションを図ることの重要性が再確認された。小川氏は、コロナ禍にかかわらず、各寺院の真摯な取り組みが重要だと結論づけた。
三番目に東北大学総長特命教授で日本民族学会前会長の鈴木岩弓氏が『流行病の宗教民俗』について宗教民俗学の立場から講演。鈴木氏は、広く一般の人々が信じているカミと人との関係から、流行病にかかわるカミの研究を発表。①流行病を起こすカミ(疫病神、病魔など)と②流行病を阻止するカミ(鍾馗、スサノウなど)に分かれる、とまとめた。
講演の後、オンラインでのコメントとパネルディスカッションと続き、同学会常任理事の芳村正徳・教派神道連合会理事長、神習教教主の挨拶で閉会した。