滋賀・日吉大社の初詣

賑わう令和初の新年

新年の祭詞を奏上する神職と初詣客

 令和の時代を迎えて初めての新年を迎えた滋賀県大津市坂本に鎮座する山王総本宮・日吉大社(馬渕直樹宮司)で歳旦祭をはじめ新年の行事が執り行われた。例年約10万人の初詣客が訪れており、今年も多くの初詣客で賑わった。
 比叡山の麓に鎮座する日吉大社は、全国で3800社以上ある日枝神社、日吉神社、山王神社の総本宮である。およそ2100年前の崇神天皇7年に創祀され、山王権現と呼ばれている。桓武天皇により京都に平安京が遷都された折、都の表鬼門に当たる比叡山の山の神である大山咋神(オオヤマクイノカミ)を御祭神として東本宮に祀ることから、都の魔除、災難除を祈る社として崇敬されてきた。また最澄(伝教大師)が比叡山に延暦寺を開いてからは、天台宗の護法神としても尊敬されてきた。西本宮の祭神である大己貴神(オオナムチノカミ)は、天智天皇の御代に奈良の大神神社より御神霊を迎え、国家鎮護の神としてお祀りした。
 山王七社とされる西本宮、東本宮、宇佐宮(御祭神は田心姫神・タゴリヒメノカミ)、牛尾宮(同、大山咋神荒魂)、白山宮(同、菊理姫神)、樹下宮(同、鴨玉依姫神)、三宮(同、鴨玉依姫神荒魂)があり、本殿である西本宮本殿と東本宮本殿は、国宝に指定されている。
 境内には、魔除けの象徴として「神猿(まさる)」と呼ばれる猿が祀られており、「魔が去る、何よりも勝る」に因み大切にされてきた。
 日吉大社の新年最初の神事は「大戸開神事」に始まる。1月1日の午前5時に西本宮、東本宮の本殿の御扉を開け、神様に新年の挨拶を行う。この神事に併せて観世流能楽師片山九郎右衛門社中の能「翁」(西本宮)、謡曲「四海波」(東本宮)が奉納される。日吉大社は能や狂言の源流である「猿楽」の発祥の地とも言われており、近江猿楽と言われている。新年の初日の出前の暗闇の中で松明やかがり火の灯りの中に昔ながらに舞われる様子は、まさに幽玄の美の骨頂である。
 「大戸開神事」の後、夜明け前に牛尾宮・三宮が鎮座する八王子山に登ると、琵琶湖を臨む対岸に近江富士こと三上山の近くから初日の出を拝むことができる。令和2年の今年は少し雲がかかっていたが、美しい令和の初日の出が臨めた。太陽の光が湖面に反射してこれも絶景である。そして歳旦祭が執り行われ、13万坪に広がる境内は初詣客で賑わい、東、西本殿を中心として参拝者が列をなして並んでいる光景に新年の新たなエネルギーを感じさせられる。
 4月には、湖国三大祭である山王祭が4日間に亘って行われる。この時には比叡山延暦寺の天台座主が五色の奉幣をされる。
 また秋には3000本を超えるもみじが境内を彩り、関西屈指の紅葉の名所として有名で、四季折々に多くの参拝客で賑わう。(2020年2月10日付760号)