昨年2月にパンデミックを警告
三宅善信神道国際学会理事長の著書
中国・武漢発の新型コロナウイルス感染症は2009年の新型インフルエンザ以来のパンデミックとなり、世界中を恐怖に陥れている。新型ウイルスの発生と流行は、専門家の間で以前から指摘されていたが、昨年2月に刊行された『風邪見鶏 人類はいかに伝染病と向き合ってきたか』(集広舎)で警告を発していたのは、神道国際学会理事長で金光教春日丘教会長の三宅善信師。宗教家としての視点が興味深い。
三宅師は同書の「はじめに」で次のように述べていた。「たとえ未知の新型インフルエンザがパンデミックを起こしても、世界規模での被害は出ないであろうという楽観的予測もある一方で、(中略)わずか数十時間の内に高度に発達した高速交通手段によって一挙に全世界に拡散してしまうという非常に危険な世界にわれわれは暮らしているのである。(中略)このような大惨事に直面しても、人々が狼狽(うろた)えることなく対処するため、人類文明にとっての伝染病の意味を説き明かすために、私は本書を著すことにした」
同書の概要を紹介すると、
第一次世界大戦のさなか1918〜19年に大流行したスペイン風邪は新型インフルエンザで、発生源の米国で50万人、「戦場」として社会インフラが徹底的に破壊された欧州では2000万人以上、戦禍の及ばない日本でも38万人の命を奪った。スペインの名が付いたのは、欧州各国が戦時体制下で報道管制を敷いた中、スペインだけが正直にその惨状を報道し、「スペインで発生した感染症」というイメージが付いたから。次の大流行は1957年のアジア風邪、68年にはA香港型のインフルエンザが大流行した。
インフルエンザウイルスは単純な分子構造なので、毎年のように劇的な突然変異を繰り返し、新型が登場してくるから、ワクチン製造が後手に回る。伝染病との戦いは、メソポタミアで人類が都市に集住した頃から本格的になり、創唱宗教もその中から生まれてきた。
「千年の都」京都・八坂神社の祇園祭の始まりは疫病封じのため。同社の祭神はインド祇園精舎の守護神である牛頭天王(ごずてんのう)で、日本で荒ぶる神スサノヲと習合した。祇園祭で山鉾からまかれる疫病除けのちまきには「蘇民将来之子孫也」と書かれている。嫁取りの旅で疲れた牛頭天王に一夜の宿を貸した蘇民将来の功績から、その子孫が玄関先に目印の茅の輪を付けると、伝染病が除けて通るようにしたのである。旧約聖書「出エジプト記」にある「過越の祭」に酷似し、宗教が伝染病の危険性の説明と回避の装置になった。
紀元前13世紀頃、エジプトで奴隷となっていたユダヤ人を、ヤハウェ神はモーセを立て「約束の地」に向かわせるが、ファラオが妨害したので、エジプトに10の災いを及ばせ、10番目で人間から家畜に至るすべての初子を奪った。ヤハウェは戸口に印のあるユダヤ人の家には災いを及ぼさず「過ぎ越された」ことに由来するのが上記の祭り。
源頼光が退治した大江山の鬼は、天然痘にかかって面相が崩れてしまった人だと推定される。「鬼退治伝説」の始まりは、中国大陸や朝鮮半島からの船が入る難波津で、今でいうグローバリゼーションの副作用である。鬼退治の桃太郎のモデルになった吉備津彦が滅ぼした「温羅(うら)」も、新羅の圧迫から逃れてきた百済の王子。大陸・半島から日本に渡って来るカモ類が新型の鳥インフルを日本にもたらす。
2002年から03年にかけて猛威をふるったSARSに関する指摘は、まさに新型コロナウイルスを予告している。
「たいてい新型のインフルエンザは、中国南部の農村部の家禽と家畜が人家の中で飼育されているような環境下で(中略)種の違いを超えて、アヒルとブタとヒトのお互いの体内に別種のインフルエンザウイルスが取り込まれ、そこでウイルス同士の遺伝子交換が行われて、新種のインフルエンザが発生すると言われて久しい。(中略)中華人民共和国当局も、『不都合な事実』を隠そう隠そうとするので、このときのSARS禍も、国際社会からの発見が遅れ、これだけ被害を拡大させてしまった」
三宅師は本年1月13日、自身のFacebookで次のように述べている。
「中国の内陸部で、またぞろ新種のコロナウイルスが原因とされる新型の肺炎が発生した。私はこれまで何度も、『生きているものはなんでも食べる』中国人の食文化が、『本来はけものの感染症であった病原菌やウイルスを人類社会に持ち込んでいる』と警鐘を鳴らしてきた。(中略)肉体的にも精神的にも『無菌培養』されている日本人に、中国から禍々しいものが持ち込まれないことを切に願う」(5面に続く)(2020年5月10日付763号)