第13回「心と命のフォーラム」/総本山善通寺

「年齢は捨てなさい」

善通寺でのフォーラムの様子=10月11日、香川県善通寺市

 最初は登壇者が自己紹介を交え発言。菅管長は「四国遍路が10年前より4割減少している。外国人の参拝者は増えており、弘法大師生誕1250年の令和5年を目標に、回復させたい」と、下重氏は「昔から話は嫌いで、書くことが大好きだった。80近くになってベストセラーを出し、やっと物書きとして認められたので、これからが私の人生だと思っている」と、7月に高松市塩江の大滝山で親子虫取り大会を催した養老氏は「四国は面白いところなのにあまり知られていない。もっと多くの人に来てほしい」と、瑞田師は「2500年前、インドに生まれた釈迦は、生老病死を人類共通の苦とし、それを克服するために仏教を興した。今日のテーマはその一つの老で、どうすれば捨てられるのか興味がある」と述べた。
 次いで下重氏が近著の『年齢は捨てなさい』(幻冬舎新書)について解説。「実年齢が83歳なのは仕方ないが、自分の感覚では60前後、いや少女の頃と同じだと思っていて、それが誇りでもある。年齢は自分で決めればよく、人に決められるのは不愉快だ。保険証をなくしたので区役所に電話すると年齢を聞かれ、来なくても再発行の書類を郵送すると言われた。後期高齢者も嫌な言葉で、お上のやり方にただ従うような生き方はしたくない」と語った。
 養老氏は「よたよたすると年を感じるが、それ以外の時は年を忘れている。高齢になると少し先には死ぬということだが、私は死はないと思っている。自分で自分の死を体験することはできないからで、何か体験するとそれは次の世界に行っていることになる。大変なのは身近な人の死で、過度に落ち込まないようにしたい」と述べた。
 菅管長は「僧は60になって一人前で、各宗派や大寺院のトップは80以上の高齢の人が多い。私は69歳だが、42歳で再婚し、一男三女をもうけた。善通寺は高松市内で三つの老人施設を経営しているが、平均年齢は男性が84歳、女性が89歳。今、介護士不足が深刻で、これからは多くの人が在宅になるだろう」と語った。
 瑞田師は「養老先生と一緒に大滝山で虫取りをしたが、先生は2万歩歩いても平気で、好きなことをしているからだろう。好きなことをすれば年を忘れられる」と述べた。台湾にも虫取りに出かけている養老氏は「子供のようにやんちゃになれることを見つけたらいい」と付け加えた。
 養老氏と同じ飛行機で来て、車に乗ろうとしたとき、ガを見つけた養老氏が追いかけて走ったことを紹介し、「好きなことをするには、仕事をちゃんとこなすことが前提で、趣味は真剣に、仕事は期待通りにするのが私のモットー」と語った。解剖学が専門の養老氏は「人の遺体を扱う解剖は義務感だけではできない。遺族への挨拶も大事でストレスがたまるが、続けているうちに好きになった」と述べた。
 菅管長は「僧が平均的に長生きなのは毎朝読経し、境内を掃除しているから。今、高野山での僧になる修行は45歳が上限だが、定年後でもなれるようにしたい。することがない高齢者は、僧になるか寺の掃除をしてほしい」と話した。
 下重氏は「高齢者には家を貸してくれないなど日本には年齢差別がある。医者が病原が分からないとすぐ加齢だと言うのもおかしい。年齢を基準にすると管理しやすいからだが、そんなお役所仕事に抵抗すべき」と語った。ブータンを訪れた養老氏は「少年がそのまま年を取ったような人たちに感心したが、中に日本人に似た人がいるので聞くと役人だった」という話を紹介し、AIに代表される管理社会に安易に管理されない生き方を提唱した。
 聴衆は話にうなずいたり笑ったりしながら、それぞれ自分の人生を考えているようだった。