六波羅蜜寺で空也踊躍念仏

「モーダー ナンマイトー」/京都市東山区

僧侶たちの空也踊躍念仏=12月13日、京都市東山区の六波羅蜜寺

 念仏の祖とされる平安時代の空也上人が始めた「空也踊躍(ゆやく、ようやく)念仏」が12月13日、京都市東山区の六波羅蜜寺で厳修され、僧侶が鉦(かね)を打ち鳴らし、上半身を上下に揺らしながら踊るように内陣をまわった。唱える念仏は「モーダーナンマイトー」。これは口称(くしょう)念仏が弾圧された鎌倉時代からの秘伝で、「南無阿弥陀仏」の唱和の声が外に漏れても、それと分からないように言い換えて唱えてきた独特の称名念仏である。僧侶と共に堂内に詰めかけた参拝者たちも一緒に唱えながら、一年の罪業消滅と晴れやかな新年を願った。
 空也踊躍念仏は、空也が平安期の疫病退散と庶民の心の平穏を願って始めたもの。鎌倉時代には口称念仏の行為自体が弾圧されたため、同寺では住職が代々、作法を口伝によって密かに継承してきた。
 この日は午後4時過ぎに始まり、まず、川崎純性住職が空也上人の事跡および踊躍念仏の由来を説明した。川崎住職によると空也上人は当時、十一面観音像を車に乗せて、念仏を唱えながら市中を引き巡り、市民には梅干しの入ったお茶をふるまった。そして、疫病に汚染された井戸の代わりに新たに井戸を掘り直すという社会事業も進め、その結果、市内には「空也井戸」と呼ぶ多くの新しい井戸ができたという。
 その後、川崎住職ら僧侶3人が体を揺らしながら、本堂内の内陣を時計回りに巡り、「モーダーナンマイトー」と唱え、また共に和する参拝者の声も堂内に響いた。踊躍念仏は弾圧当時の作法であるかのように15分ほどで終わり、僧侶たちも静かに内陣から退いた。そして参拝者たちは、ともに念仏を唱えた仲間ということで普段は入れない内陣に入っての参拝となった。
 同寺は例年この時期、踊躍念仏のみを営んできたが、今年は着座で唱える「称名念仏」も復活させ、参拝者の多くは初めて唱える「モーダーナンマイトー」を、僧侶にあわせて唱和した。踊躍念仏は12月13日から20日、および28日から30日まで営まれ、30日のみ非公開。なお、秘伝だった空也踊躍念仏が公けに修められるようになったのは、国の重要無形文化財に指定される際に一般公開が行われたためである。