謹訳源氏物語

2022年2月10日付 784号

 正月早々、1月8日から一週間、腸閉塞で入院した。
 小腸や大腸が癒着して詰まってしまう病気で、腹部手術を受けた人によく発症するとのこと。私は12年前に胃がんの開腹手術を受け、胃の三分の二を切除し、小腸につなぐ手術をしていたので、その後遺症だろうとの診断。確かに胃に近い小腸が癒着していた。多くは術後間もなく発症するが、まれに10年以上経っても起こるという。
 重篤の場合は内視鏡か開腹手術になるのだが、幸い、絶食と点滴、内服薬で3日後にガスと便が出るようになり、重湯から始めて7分粥になった7日目に退院できた。
 突然、暇になったので、先延ばしにしていた源氏物語をスマホで読むことにした。多くの現代語訳がある中で選んだのは林望の『謹訳源氏物語』。林さんには、源氏を初めて英訳し、世界で評価されるきっかけをつくったアーサー・ウェイリーのようなイギリス的な雰囲気があったから。
 5日かけ最後まで読んで分かったのは、源氏物語は単なる恋愛小説ではなく、光源氏の死後、彼の孫の代まで続く人生の物語だということ。理想の妻である紫の上との関係も微妙に変わるなど、人の心の変化がとても詳しく描かれている。
 藤原道長の娘・中宮彰子の家庭教師に採用された紫式部が、それまでのいろいろな物語を参考にしながら、人生訓として書いたのが源氏物語で、縄文時代からの口承文学の集約とも言えよう。
 妻との心の変化や息子、孫たちの関係を思いながら、源氏は高齢になって読むのがいいと思った次第。

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