日本仏教教育学会第29回学術大会

仏教の価値観で家庭再建

発言する塩入法道会長

 11月21日、東京都世田谷区の駒澤大学内・日本仏教教育学会事務局(熊本英人研究室)を発信先に日本仏教教育学会第29回学術大会がオンラインで開催された。
 塩入法道会長(大正大学教授)は挨拶で、「授業や学会などもオンラインになり、教育環境が大きく変わった。新しい生活様式と仏教教育も考えないといけない」と述べた。
 東京大学大学院生の成田龍一朗氏は「グスタフ・ランダウアーの神秘思想における仏教と『教育』可能性」を発表、ドイツで神秘的アナーキズムを展開したランダウアーが仏教から影響を受け、芸術が「教育」の手掛かりとされたことに注目した。
 「仏陀によって精神的な個人は否定されたとしたランダウアーは、『仏陀は、外の世界の独立した創造者など存在しないとし、独立した個人の魂もばかげたことだとしている。輪廻の教えには、すべての存在の間に不可分のつながりがあり、別のものや力に変容するという真理の核心が潜んでいる』とも述べた。ランダウアーは、『われわれは芸術のなかで世界を獲得し、創造し、我を忘れる』とし、芸術を通した教育を考えた」
 続いて、前千葉県立柏南高等学校教諭の鈴木一男氏が「実存主義を乗り越えて─ブッダと私─」を発表し、人間の「本来的在り方」を求めるには、実存主義だけではなく宗教・宗教思想により生き方が説かれるべきだとし、仏教は他の思想より高い次元に立ち、すべての思想を含むと述べた。
 東京基督教大学大学院神学研究科教授の岡村直樹氏は徐有珍助教授(東京基督教大学神学部)との共同研究「コロナ渦の宗教教育と信仰心の涵養に関する混合研究」を発表した。
 「学生の『精神的な状態』と『信仰心の状態』の双方がコロナ蔓延の影響を受け、授業のオンライン化による『相談相手の不在』が、双方にネガティブな影響を与えている。授業への集中度や能動性の度合いは、学生の『信仰心の状態』や『信仰心の成長』と深く関わっている。大学は、オンライン授業の利便性を生かしつつ、学生がより積極的に関わることのできるクラス運営を心がけるべきで、宗教教育において学生が目的や目標を見出すよう手助けできる」
 最後に平田天石・山形大学名誉教授が「家庭虐待と日本仏教教育─日本的霊性の在り処─」を発表した。
 「20年来、実父母による家庭内虐待が急増し、家庭崩壊と世間消失が進行している。親が無宗教で不道徳であれば家庭は無法地帯になりかねない。明治初めに日本各地を旅したイザベラ・バードは『日本奥地紀行』で、『これほど自分の子どもをかわいがる人々を見たことがない。…他人の子どもに対しても、適度に愛情をもって世話をしてやる』と述べ、ルース・ベネディクトは『菊と刀』で、日本人の『幼児期の特権と気楽さ』を、仏種を信じる法華信仰から分析している。心理人類学の浜口恵俊は、『「日本らしさ」の再発見』で、西洋近代の『個人』が独立した行動主体としての『社会的原子』であるのに対して、日本人は 家族や世間などの『間柄』における主体システムとしての『間人』で『社会的分子』だとし、龍樹の『縁起論』に立脚して、キリスト教的な『方法論的個体主義』から仏教的な『方法論的関係主義』への転換を図った。女人往生を説く勝鬘経の『大悲をもって衆生を安慰し哀愍して、世の法母と為る』精神が、母性原理に立脚する日本的霊性の在り処を指示する。日本仏教の在り方を見直すべきだ」