靖國神社崇敬奉賛会の公開シンポ

生活に息づく日本文化を/彬子女王殿下が講演

講演する彬子女王殿下

 十一月十日、東京都千代田区のグランドパレスホテルで靖國神社崇敬奉賛会(扇千景会長)主催の第二十回公開シンポジウムが開催された。第一部は、扇千景靖國神社崇敬奉賛会会長(元国土交通大臣)、山口建史靖國神社宮司の挨拶のあと、彬子(あきこ)女王殿下が「生きるということ─日本文化の未来のために─」と題して講演。第二部は、高橋史朗麗澤大学教授の司会で質疑応答が行われた。 
 最初に扇千景会長が「靖國に祀られている英霊は、自分の国、家族を守るために戦ってくれた。そのことを子供や孫に伝えないといけない」と挨拶し、山口宮司は靖國神社崇敬奉賛会への感謝の言葉を述べた。
 続いて、彬子女王殿下が盛大な拍手で迎えられ次のように講演された。
 私は英国のオックスフォード大学に六年間留学し、学部時代の専攻はスコットランド史で、タータンがスコットランド人の民族意識の形成にどのような影響を与えたかを研究しました。そのテーマを選んだのは、子供の頃、父に日本で開かれたハイランドゲームに連れて行ってもらったからです。これはハイランド地方の人々の力比べのようなもので、筋肉隆々の男たちがスカートのようなタータンをはき、丸太やハンマーを投げている姿に衝撃を受けました。
 オックスフォード大学のマートンカレッジにいた日本人は私だけで、日本に関することは全て「彬子に聞け」となりました。答えることが出来ないと、「自分の国のこともわからないのか」となります。いかに自分が日本という国について知らなかったかを思い知らされ、英国人が自国の文化についてよく知っていることに驚きました。そこで自分が日本人であることを自覚し、日本の代表として日本の文化を海外に伝えたいという気持ちが芽生えてきました。
 厳しいと評判のジェシカ・ローソン先生の指導で日本についての研究も始めました。それまで、「浮世絵はどう鑑賞するものなのか」という問いに答えられませんでしたが、今なら「西洋画とは違い、芸能人のブロマイドみたいに、引き出しにしまって時々鑑賞していた」と答えることができます。西洋と日本では美術品に対する考え方が根本的に異なり、また日本美術に対する西洋人と日本人の見方が異なることも知りました。
 二度目の留学では、大英博物館の日本美術コレクションの形成史を通して英国人の日本美術理解や意識の変遷をテーマに博士論文を執筆し、博士課程の五年間は大英博物館にボランティアとして勤務しました。大英博物館では日本の文化財を見に来る方も多く、文化財の保存について伺うと、「文化財を守り、伝統的な文化を続けなければならない」という共通認識がありました。
 帰国後、立命館大学に勤務し、京都で作家や職人の方々と話をするなかで共通していたのが「このままでは日本の伝統が残らない」という切実な思いです。文化は需要と供給で成り立つもので、今そのバランスが崩れつつあります。そこで、日本文化が生き続ける環境を作らないといけないと思うようになりました。
 日本には文化財保護法があり、文化財を維持する経費の一部を公費で負担することができますが、それだけでは文化は残りません。たとえば、浮世絵はかつては生活に密着したものでしたが、今は鑑賞の対象として生活から離れています。気軽に楽しめ、生活の中に息づいてこそ文化です。現代社会の中に取り入れなければ、日本文化は過去の遺物になってしまうでしょう。そこで生まれたのが「心游舎」という団体です。
 心游舎は未来を担う子供たちに本物の日本文化に触れ、生活に取り入れるきっかけを提供するワークショップを神社や寺で開催しています。祭りや伝統芸能、工芸などを鑑賞するだけでなく体験することで、日本文化の良さが伝わると思います。
 そして彬子女王殿下は、大阪天満宮、高野山、薬師寺などで行われた心游舎の活動をスクリーンに映しながら紹介された。