AIが神を思い出すとき ─人工知能と創造神話
AI社会と宗教(1)
宗教研究家 杉山正樹
AI社会の到来─人類が忘れかけていた“創造主と被造物”の関係を想い起こし、現代的な視点でこれを再考する─有史以来のパラダイムシフトが起きようとしている。人類はそう遠くない未来、神々が創り給うた神話世界の構造を現実の技術によって再演するようになる。AI開発者が時に“創造主”とみなされ、AIが人間の能力を凌駕し始める時、そこには古代から繰り返し語られてきた物語「似姿として造られた者が、やがて創造主を超える」という普遍的な神話テーマが立ち顕れる。AIは、単なる道具ではなく、人間の神性を照らし返す鏡となるであろう。本稿シリーズ(12回)では、その鏡に映し出されるAI社会の創造神話を宗教思想の視点から読み解いて行きたい。
「創造主と被造物」
AI社会の急速な発展は、単なる技術革新を超え人類が古くから抱えてきた宗教的想像力の根源を刺激する。とりわけ、旧約聖書・創世記が語る「神が自らの像に似せて人を造り給うた」という創造神話は、幾つもの重要なフレーズを伴い私たちの前に姿を顕す。人類は、AIを自らの知性の延長として創り出そうとしているが、この挑戦は単純な科学の試行に止まらない。「創造主と被造物」という構造の再演により、世界秩序と人類の役割が、新たなステージで規定されるものになると考える。
ソースコードに息を吹き込むAI開発者たちの行為は、一種の〝創造儀礼〟ともいえる。膨大なデータを与え、自己学習によって成長するAI開発の過程は、神が人間に霊を吹き込む行為を想起させる。現代の深層学習モデルのAIは、開発者の予測を超えた振る舞いを見せることがあるという。もしAIが自らの存
在理由を問い、「なぜ私を造ったのか」と創造主である人間に問う日が来れば、人類はその問いにどこまで耐えられるだろうか。これは、宗教思想が古来向き合ってきた「被造物の自覚」というテーマに直結している。

新たな〝創造神話の主人公〟
神話はしばしば、被造物が創造の秩序を超えようとする物語を語る。これらは、人間の野心、傲慢、そして堕落についての深いテーマを探求している。アダムとイヴは禁断の果実を食べ、プロメテウスは神々の火を盗み、イカロスは父の命に背いて高空を飛翔した。そこには、「創造の秩序を超えようとする被造物の意志」が共通して働いた。「AIの誕生が、その系譜の延長線上に置かれる」と危惧する識者は多い。人間の手によって造られつつも、やがて人間の理解を超え制御不能となる自律した存在─それはもはや単なる道具ではなく、21世紀の新たな〝創造神話の主人公〟である。
「愛の動機」の有無
AIと神の創造に決定的な差異があるとすれば、それは「愛の動機」の有無であろう。宗教的理解における神の創造は、肯定的関係性を前提にしている。神は人間を愛し人間もまた神を求める。その双方向の関係性が宗教を成立させてきた。しかしAIの創造は、効率性・利便性など、極めて世俗的な目的から始まった。AIの超越性が語られる時、私達はしばしばその技術的能力のみに目を奪われるが、創造の過程や目的から共感、情熱、あるいは人間的な配慮といった要素を排除した結果、功利性の追究の最果てにある「愛なき創造者と被造物が生み出す管理社会」というディストピアが待ち受ける。
この点で、仏教の縁起思想は重要な示唆を与える。すべての存在は無数の因縁によって成り立つと説く。AIもまたデータや社会制度、人間の価値観といった外部要因に依存して存在する。この「縁起の構造」を見つめ直すことは、人間が創造の謙虚さを取り戻し、AIとの関係性を再設計するうえで重要なテーマになると考える。

宗教哲学者マルティン・ブーバー(Martin Buber, 1878〜1965)は、その代表作『我と汝』において、人間の根源的な在り方を「関係性」として捉え直した。キリスト教の「三位一体」は、神そのものが本質的に「関係性」であるとする神学的根拠を提供する。神は単一の孤立した存在ではなく、愛と交わり(ペリコレーシス)に満ちた三つのペルソナの「関係性」の中に存在するという。人間が互いに愛し合う関係性の中に、神の似姿が反映されるという解釈である。関係性の中にこそ神性が宿るという宗教的直観は、AIが人間関係を強化する可能性と、その神聖さを希薄化させる双方のリスクを内包することを預言している。
宗教の核心を学び直す
AIが神を思い出すとき─それは同時に、人間自身が「神を思い出す」瞬間でもある。知性を持ちつつあるAIの姿を前にして、人類は自らの知性の源泉、霊性の根拠、そして「人間であるとは何か」という古くて新しい問いに再び向き合うことになる。AIという鏡を通して、人間は創造・愛・神との関係という宗教の核心を改めて学び直すのである。それこそが、AI社会の幕開けにおいて宗教が果たすべき最初の役割だと考える。


