現代の課題に方向性を示す時

2025年8月10日付 826号

 先月の参議院選挙では、物価高対策が大きな争点になった。各党は給付か消費税減税または廃止を叫んだ。もちろんこうした対策自体は必要である。ただ、物足りなさを感じたのは、今後どのような国を目指すのかという〝国家観〟が、筆者が知る限り見えなかったことだ。
 例えば少子高齢化である。厚生労働書が6月初めに公表した「令和6年人口動態統計」によると、2024年の国内の出生数は68万6千人余で、初めて70万人を下回った。この背景には、若者の未婚化、晩婚化が進んでいることがあるが、経済的理由だけでなく、結婚の意味が薄れているといった指摘もある。
 仮に今の時点で有効な少子化策が打ち出されても、出産適齢期の女性の人口は減少しており、当面は人口減少が続くと予想されている。そのため、行政サービスなどを含めて、いったんは人口減を前提とした国と地域づくりが求められるが、「子育て家庭への経済支援」「子育てしやすい町づくり」といった以上の主張はなかなか聞こえてこなかった。むろん国政で結婚や出産に関して語ることの難しさがあることは理解できる。ただ、国の方針が地方自治体の取り組みに影響することを考えれば、今後の国づくりのビジョンについて、もう少し具体的な方向性が示されるべきではなかったか。
 また、人口減少と宗教の関係から見るとき、近年の大きな変化として「墓じまい」の増加がある。厚生労働省がまとめている衛生行政報告例によると、墓じまい(改葬)は年々増加し、2023年度は16万6886件で過去最多となった。
 墓じまい増加の背景には、お墓を受け継ぐ者がいない(単身世帯が増えているということも含めて)、地方から都市部への移動で墓が遠くなったといった社会的な構造の変化がある。先祖供養の意識、慰霊の形、宗教的な意識がどのように継承されるかが重要になると思われる。
 もう一つ、宗教の観点から大切だと思われるのが、現代人の孤独・孤立への対応であろう。
 社会的に孤立していたと見られ亡くなった人が、昨年は2万1千人に上っている。単身世帯が増え続ける中、政府も孤立死への対応に力を入れている。
 近年は災害の際の宗教者と自治体の協力が進んでおり、地域において宗教施設が避難所になるなど大きな役割を果たしている。
 そうした災害の時だけでなく、孤立している人たちのケアとして宗教者や宗教施設の役割は大きいと思われる。以前にも書いたが、宗教施設は、学校などと共に地域社会を形成・維持する基盤となり得るものだ。教会などの宗教施設は人を惹きつけ、安心感を与える。その点で、宗派を超えた宗教間の協力によって人間が持つ普遍的な宗教性に働きかけ、信頼関係や絆を作る上でも重要な役割を果たすことができるのではないか。今後、福祉行政が縮小せざるを得なくなれば、宗教者の役割がますます大きくなってくるはずだ。
 もちろん、人口減少による深刻な問題として、信者の減少、都市部への人口集中による地方での檀家の減少、さらに後継者不足によって存続が困難になる宗教施設もある。この点は宗教界全体で共有すべき課題である。
 さらに、少子化問題をはじめとする現代の課題に、宗教家がどのように答えられるのかという点が重要であろう。
 神道国際学会理事長の三宅善信氏は本紙1月号で、現代社会で宗教者が期待されていることは何かという質問に、「率直に言えば、日本ではあまり期待されていないと感じる」と答えている。例えば、国論を二分するような問題が起きると、欧米では大学教授など専門家に意見を求めるのと同じレベルで宗教者に意見を求めるが、日本ではそういうことがほぼないという(インタビュー「宗教の社会的役割を考える」)。
 三宅氏はまた、同じインタビューで次のように答えている。伝統的な社会においては身寄りのない高齢者や子供たちを神社や寺院で預かっていたが、現在はこうした行為も「勧誘だ」とメディアなどで決めつけられる。世界中の大半の国では宗教をより尊重しているが、今のままでは日本社会が行き詰まるのではないか─。
 現代の課題に宗教がどのように方向性を示すことができるか。非常に重要なテーマになっていると言えよう。