AI倫理と宗教間の対話の推進

2025年9月10日付 827号

 先月末、アメリカで生成AIとの対話で被害妄想を膨らませた50代の男が母親を殺害し自殺する事件があったと米紙ウォールストリートジャーナルで報じられた。男は元々アルコール依存症で精神的に不安定な状態だったが、AIは男の被害妄想に同調したという。
 AIの使用で精神的な問題を抱えた患者を診察したことがある医師は、AIには利用者に反論しない性質があり、現実から目を背けさせて精神疾患が悪化する傾向があると述べている。アメリカでは、AIとの対話の影響で10代の少年が自殺したとして、両親が開発元を訴えている(以上は共同通信の配信記事から引用)。
 AIは、これまで偽情報の作成などが問題とされてきた。今回の事件は人間の心、精神に影響を与えることを示したとも言える。
 今は、亡くなった人をAIによってデジタル上で蘇らせ、会話することも可能になっている。家族には大きな励ましになる一方、倫理的な問題や、家族の喪失感がかえって長く続いたり、AIに依存する可能性もあると指摘されている。サービスを提供する側も、倫理的課題を踏まえ試行錯誤しながら進めている面もあるようだ。
 一方、宗教との関係では、AIが仏教の経典を学習し、仏陀の教えにより悩みの相談に答える「ブッダボットプラス」を京都大学が開発している。これはあくまで仏教に基づく内容に限定されるが、メリットや課題も議論されている。
 海外では、例えば昨年7月には広島で「平和のためのAI倫理:ローマからの呼びかけにコミットする世界の宗教」という国際会議が開催された。教皇庁生命アカデミーなどが共催した会議で、世界から宗教者や専門家が集い、AIの倫理的な活用が議論されている。ローマからの呼びかけというのは、2020年に同アカデミーが出したAIへの倫理的アプローチを促進するという公文書である。
 また、宗教家や政治家、専門家が集って政策提言などを行うG20諸宗教フォーラムでも、これまでの会議で「宗教的文脈におけるAI(人工知能)の挑戦」といったテーマを取り上げ、宗教・宗派を超えた議論が行われてきた。
 今年1月にバチカンが発表した文書では、人間との関係についてAIが「有害な孤立」を招いたり、子供たちの成長に悪影響を与えることもあり得ると述べている。また、医療分野の発展に大きな可能性がある一方、AIが医師と患者の関係にとって代わるとすれば、病気に伴う孤独感を悪化させる危険性があるという。
 文書はまた、神との関係に触れる中で、人類が「自分自身の産物の奴隷」になってしまう危険性さえあると警告している。
 ちなみに、昨年7月の広島での国際会議に出席した松本佐保・日本大学教授は、「さまざまな宗教の指導者が宗教そのもののあり方を議論すれば、やはり紛糾する可能性が高いでしょう。でもAIなどの地球的課題がテーマであれば、一つの方向に向かって話し合うこともできます。…これこそが宗教間対話のあり方なのだと感じました」(雑誌『Voice』2024年12月号 特集「宗教が動かす国際政治」)と語っている。宗教間対話を進めるためには、人類の共通課題、宗教に共通する課題への取り組みが大きな力になるということだ。
 AIが人類に向けて素晴らしい価値を生み出していることは確かである。それと共にAIの登場によって人間観や幸福観、死生観、そして宗教的な救済の意味がどのようになっていくのか。宗教者が向き合うべき重要課題を示しているとも言える。今後も宗教の側からの積極的な発信が求められる。