社会の土台としての宗教
2025年7月10日付 825号
フランスの人口歴史学者エマニュエル・トッドが、著書(『西洋の敗北』文藝春秋。本紙3月号で紹介)で次のように述べている。
「宗教の崩壊は、私の分析モデルの中心にある」が、宗教的実践と宗教的弱体化は世俗化の第一段階(ゾンビ状態)を生み出す。そして、「宗教から受け継いだ慣習と価値観も、やがては衰えてしまうか破裂を起こし、最後には消滅する…これが『宗教のゼロ状態』」で、「社会生活、道徳、集団行動などを形成してきた宗教の価値観が、まったく意味をなさなくなる」という。その帰結がニヒリズムである。
そして「西洋の敗北は…宗教面、教育面、産業面、道徳面における西洋自身の崩壊プロセスの帰結なのだ」と述べ、「西洋の敗北」の重大要因の一つに宗教の衰退があることを示唆している。
一方、アメリカでは国民の宗教離れが進んでいると言われているが、米ピューリサーチセンターが2023〜24年に実施した調査によると、低下が続いていた国民の信仰心が、このところ横ばい傾向にあるという。
キリスト教徒と自認しているアメリカ人の割合は過去5年間は60%台前半で推移し、低下が鈍化している。
ただ、若者の宗教心は高齢者に比べると薄くなっており(例えばキリスト教徒だと自認する人は74歳以上が80%に対して、18〜24歳は46%。毎日祈るという回答も、74歳以上が58%だったのに対して、18〜24歳は27%に止まる)、今後数年間でアメリカの宗教的状況が衰退する可能性があるという。
若者たち、いわゆるZ世代の信仰心について、ニューズウィーク(「ジェネレーションZはより宗教的になりつつあるのか?」2025年4月18日)やUSAトゥデイ(「Z世代はキリスト教に回帰しつつある」同4月20日)といった大手メディアも注目している。ただし、Z世代の宗教復興の兆しが見えるものの、それが一時的なものか継続されるものかは、もう少し様子を見なければ分からないと指摘している。
もう一つ、同センターの調査では、アメリカ人の宗教的アイデンティティは生い立ちと強く結びついており、幼少期に家族の中で宗教を大切にしてきた人の半数以上が、現在も宗教は非常に重要だと答えている。ただ、現代の若者は高齢世代よりも宗教的な家庭で育った割合が低い。この点では、家庭における環境が国と社会の行方を左右することにつながるとも言えよう。
宗教が各々の人生観はもちろん国と社会の土台として大きな影響力を持っていることは確かである。日本では近年、例えば災害時に地域の拠点となるなど、社会関係資本として宗教の役割が改めて注目されている。一方で、子供たちが育つ宗教的環境(家庭環境)については、どこまで注目されているだろうか。メディアなどで度々使われる「宗教二世」という言葉には否定的な印象さえ受けるが、次世代が育つ家庭の宗教的環境について、今後の更なる客観的な研究が待たれる。


