若い世代の伝統継承、共同体と宗教

2026年2月10日付 832号

 

 先月12日を前後して、各地で成人の日の行事が行われた。筆者が住む町でも市主催の「二十歳を祝う集い」が行われ、最寄り駅は普段出会えないほど多くの若者たちで溢れた。
 また、今月号は成人式にちなんで京都・三十三間堂で行われた「通し矢」の行事を紹介した(1面)。
 今回、新たに成人(18歳)になったのは、前年と同じく109万人である。70年代以降では2番目に少ない数だ。
 以前も書いたが、若者が大人になるためには「己を超える存在を認識すること」が重要だという(ユング心理学者だった故・河合隼雄氏、『大人になることのむずかしさ』)。そのために大切なのが成年になるための伝統的儀式をはじめ通過儀礼(イニシエーション)だ。伝統的な儀式にはもともと宗教的な意味合いが込められている。現代の若者はこうした儀式への関心が薄れていると思われがちだ。ただ、集っている若者たちを見ると、強く意識しているかどうかはともかく、家庭あるいは地域社会において宗教的な伝統や文化(一部でも)の継承が大人世代が思う以上に、なされていると見ることができるのではないか。
 もちろん、ここで言う宗教的伝統というのは、特定の宗教、宗派を意味するわけではない。人が人として生きていくために求められる倫理や社会性、利他性といったものである。
 また、人が成長していく上で、こうした価値を伝えていく中心となるのは家庭であるが、次いで大きな影響力を持つのが地域社会や学校などの共同体である。
 教育の分野になるが、一例をあげると、アメリカの教育学者トーマス・リコーナが「倫理的学習共同体」という概念を提唱している。教室での道徳の授業にとどまらず、学校・家庭・地域(教師、生徒、親、および幅広い地域)が連携して、諸活動に包括的にアプローチすることで、子供たちの人格の成長を促すという教育法である。
 リコーナは具体的には、勤勉、強い勤労倫理、積極的態度、忍耐、工夫、自制、誠実、正義、配慮、尊敬、責任、協力などの涵養を学校の使命と述べている(柳沼良太『人格教育の継承と発展』)。
 こうした倫理観を育てるのはもちろん、共同体の形成、社会的なつながりを作るという点では、地域の伝統と文化を担う宗教、あるいは宗教施設が重要な役割を果たしてきた。若い世代を育て、伝統と文化、宗教性の継承でも、役割を担うことができるはずだ。
 一方、本紙11月号でも引用した公益財団法人庭野平和財団の「日本人の宗教団体への関与・認知・評価の20年」(2019年)では、宗教団体の社会的影響力について「地域社会の交流や安定に貢献している」、「災害時の救援やボランティア活動など社会的に貢献している」といった国民の評価があった。しかし近年は、宗教の社会貢献への認識が低下している。宗教者の顔が身近に見えにくくなっている社会状況もあろう。
 これも繰り返しになるが、宗教者の社会貢献の基礎になっているのは信仰であり、さらに言えば利他の精神だ。人間は本質的には精神的・道徳的存在である。こうした社会貢献の背景にある宗教的価値を国民がどのように受け止めているか、身近に感じているかも重要である。
 ちなみに、若い世代が成長する環境としては、現代社会は様々な課題を抱えている。最近で言えば、AIへの依存、孤独・孤立などがある。昨秋には、孤独感を抱いている思春期の子供(10〜16歳)は、インターネットの使い過ぎにつながるリスクが増大するという研究が発表されている。「問題のあるインターネット使用」とは、家庭や学校などの日常生活に支障が生じるほどインターネットを使用している状況である。結果を発表した国立成育医療研究センターなどのグループは、改善策として「家庭・学校・地域での人のつながり作り」をあげている。
 次世代を育て、伝統と道徳的な価値の継承という点で地域共同体を支えることができるのも、宗教者の力ではないか。