「貢献寿命」と誰かの役に立つという喜び

2026年3月10日付 833号

 

 昨年1年間の出生数は70万5千人と、過去最少を更新したことが厚生労働省の人口動態統計(速報値)で分かった。日本人だけだと70万人を切る可能性が高い。
 一方、日本が直面するもう一つの課題が高齢化だ。高齢化率(総人口に占める65歳以上の人口の割合)は29・3%(令和6年10月現在)に達している。65歳を高齢化の線引きにするのも実態に合わなくなっているが、世界でも類を見ない高齢化社会に向かっていることは確かである。
 こうした社会構造の変化の中で、「貢献寿命」という概念が広がっている。
 提唱した秋山弘子・東京大学名誉教授によると、「何歳になっても社会とつながり役割を持って生きる、収入を伴う仕事に限らず、些細なことでも『ありがとう』と感謝される」生き方だという(「『貢献寿命』の延伸を」公益財団法人長寿科学振興財団ホームページ)。仕事をしていてもボランティアでもいい。社会とのつながりを持ち、誰かの役に立つ喜びや生きがいを持てるということになろうか。
 平均寿命が伸び、高齢者が増える中、新たな人生の意味を見出す。「健康寿命」から一歩前に進んだ考え方と言えるかもしれない。実際、社会とのつながりが豊かだったり、誰かのために行動するという人は幸福度が高いと言われる。現在、高齢者をはじめとして時間や場所に柔軟な社会参加を促進する情報プラットフォームによる地域貢献の活動も進められているという。地域に分散した趣味の活動や生涯学習、ボランティア、仕事などの様々な地域活動や地域資源の情報を可視化し、地域に役立てるというものだ(一橋大学、東京大学などの研究プロジェクト「貢献寿命延伸への挑戦!〜高齢者が活躍するスマートコミュニティの社会実装」)。
 また、近年は高齢者の孤独、孤立への対応が大きな課題である。1年間に約2万人が社会的に孤立して亡くなっていると見られ、地域レベルでの取り組みが重要になっている。
 秋山名誉教授は、「『貢献寿命』の延伸は、個人と社会のwell-beingに資する。世界最長寿国の日本が『健康寿命』の次なる目標としてモデルを示すことが期待される」と述べている(同)。
 ちなみに、生物学の分野では「祖母仮説」という概念がある。女性が閉経後、つまり身体的に子孫を残せなくなった後も一定期間長生きをするのは、孫の世話を引き受けることで孫の生存率が高くなったり、親(つまり祖母の子供)が次の子供を出産しやすくなるという仮説だ。これはあくまで生命の不思議な力であって、「貢献寿命」の定義とは少し違うが、誰かの役に立つための長生きという意味が与えられると、共通点もある。
 数年前に話題になった『「利他」とは何か』(集英社新書)によると、利他の本質は無為の中にあり、人間の意思を超えたものによって促されるとき、利他が生まれる。つまり、利他は意図的な行為ではなく、人知を超えたところに宿るのだという。
 人のため、社会のために貢献する時に感じる喜びは、宗教心に通じるものだ。