しめやかに勅祭「石清水祭」

京都府八幡市石清水八幡宮で

　三大勅祭の一つ「石清水祭」が９月15日未明から、京都府八幡市の石清水八幡宮で斎行された。国宝である山頂の本殿において祭神の八幡大神を遷した三基の御鳳輦（ほうれん）は、午前３時、担がれて本殿の階段を下り、田中恆清（つねきよ）宮司以下神職、楽人、神人（じにん）ら約５００人の祭列が山頂を出発した。

　祭列は神輿の原型といわれる御鳳輦を中心として、松明や提灯の明かりを連ね、山麓の頓宮（とんぐう）へと進んだ。御鳳輦を迎える頓宮では、天皇からの勅使である上卿（しょうけい）が参議以下の供奉（ぐぶ）員を率い、「中臣の祓い」による修祓を受けて礼堂に入って待った。
　午前４時過ぎ御鳳輦は著御（ちゃくぎょ）し、神宝である御剣が頓宮殿に移された後、御鳳輦は頓宮殿に入御、奉幣（ほうべい）の儀が厳かに始まった。神饌を献じる献饌、宮司による祝詞奏上、そして上卿が舞台で見守る中、三座分の御幣物が神前に奉献された。
　続いて上卿御祭文奏上の儀となり、国家の繁栄・国民の安泰、世界平和を願われる天皇陛下の御祭文が、微音（びおん）にて奏上され、宮司によって御神前に修められた。この時、上卿と宮司の間で返祝詞（かえしのっと）という極めてまれな作法が行われた。
　その後、宮中の左右馬寮（めりょう）から１頭ずつ神馬が毎年奉納された姿が再現され、２頭が神前を３周する御馬牽廻（おんうまけんかい）の儀が行われた。そして、第１１２代霊元天皇が雅楽器を奉納された故事にちなみ、その中の三管を楽人に授けて奉奏する「勅楽奉奏」の儀が行われた。参列者は、ほの明るいかがり火に照らされて粛々と進行する神事を見守り、夜が明けた頃、撤饌の儀が行われた。
　明け切った午前８時過ぎからは近くの放生川で、生きた川魚を放つ「放生会（ほうじょうえ）」が斎行された。この放生会は宇佐八幡宮から伝わったもので、養老４年（７２０）、豊後守が隼人遠征で多数を殺害したため、毎年放生会を厳修せよとの宇佐大神の御託宣によって始まったとされる。放生に先だち雅楽装束の子供たちによる「胡蝶の舞い」が、川にかかる木造の橋の上で奉納された。
　同日夕刻には、還幸の儀が斎行され、祭列はもと来た参道を上り、御鳳輦は山頂の本殿に還御した。
　同社の田中恆清宮司は「戦後80年の節目となる本年、勅使をお迎えして天皇陛下の大御心を八幡大神様に奏上申し上げ、本祭祀の本義である生きとし生けるものの平安と幸福、世界の平和を祈念し、厳粛にご奉仕致しました」と述べた。
　石清水八幡宮は、京都の南南西の男山（標高１４３メートル）の山上に鎮座し、祭神は誉田別命 （ほんだわけのみこと、第15代応神天皇）、比咩大神 （ひめおおかみ、宗像三女神、すなわち多紀理毘売命（たぎりびめ）、市寸島姫命（いちきしまひめ）、多岐津比売命（たぎつひめ）、および息長帯姫命 （おきながたらしひめのみこと、神功皇后）の３柱で、「八幡三所大神」、「八幡大神」と総称される。同社は、日本三大八幡宮の一つで、本殿を含む建造物10棟が国宝に指定されている。
　同社の始まりは、大安寺の僧・行教が宇佐八幡宮で八幡大菩薩のお告げを受けた翌年の貞観２年、清和天皇の命で八幡造りの社殿が造営された。朝廷の尊信は篤く、賀茂神社、松尾大社、春日大社などと同等の待遇を受け、平安末期には白河天皇の殊遇を受けて伊勢神宮とともに二所の宗廟として崇敬された。八幡神を氏神とする源氏からも崇敬を受け、源義家は７歳の時に同社で元服し「八幡太郎義家」を名乗った。全国の八幡宮は当社から勧請されている。