少子化と宗教的体験、地域の安心感
2025年3月10日付 821号
昨年1年間の国内の出生数が過去最少の72万988人となった。これは外国人を含む数字であるため、今後公表される予定の日本人のみの出生数では70万人を割り込む可能性が高い。
国立社会保障・人口問題研究所の将来推計では、70万人を割るのは2030年(令和20年)と見られていたが、大幅に早まる見通しだ。90万人を割り込んだのは2019年(令和元年、86万5千人)で、80万人を割ったのが2022年(令和4年、77万1千人)である。仮に効果的な少子化対策が実施されたとしても、出産適齢期の女性は減少していくため、少子化の流れ自体は当面は変わらない。「静かなる有事」である少子化は急速に進んでいる。
また、死亡者数は161万8千人で、人口の自然減が89万人を超えた。自然減も10年前の2014年(平成26年)は約27万人の減少だった。人口減少の幅も急速に大きくなっていることが分かる。
婚姻件数は49万9999組で、前年より1万組余り増加したが、コロナ禍の影響が低下したことによると考えられ、当面は減少傾向は続くと見られる。
わが国では1990年の「1・57ショック」以降、94年の「エンゼルプラン」や2012年の「子ども・子育て支援法」など様々な対策が打ち出されてきた。しかし、現在までのところ、十分な成果をあげているとは言い難い。従来の政策は少子化対策ではなく、保育政策にとどまっていたとの指摘もあるほどだ。
ここ数年は、主に若者の結婚支援、経済支援など子育てしやすい環境づくりが行われている。
石破茂首相は1月の施政方針演説で、国づくりの基本軸として人口増加期の経済社会システムを中長期的に持続可能なシステムへ転換していくこと、そして全ての人が幸せを実感でき、人を財産として尊重する「人財尊重社会」を築いていく必要があると語り、そのために「若者や女性にも選ばれる地方」など地方創生策を打ち出した。2月の衆院予算委員会でも、男女の出会いの機会を行政が作るよう努めるべきとの考えを示している。
一方で、最近の社会の風潮として気になるのは、母親になることに対するマイナスのイメージが盛んに叫ばれていることだ。確かに女性、母親が抱える育児の負担や困難を改善していくことは重要である。
ただ、出産や子育ての楽しさ、喜びを伝えていくことも大切ではないか。助産院で出産した女性たちの手記には、「宇宙との一体感を感じた」「自分の境界線がないようだった」「大きな力が働いていてそれに動かされているようにゆだねていた」という体験が書かれているという(三砂ちづる著『オニババ化する女たち』)。
行政の立場で一つの生き方を勧めることは難しいが、出産によるこうした肯定的体験(宗教的体験と言えるかもしれない)が伝えられる機会がもっとあってよいのではないか。
また、少子高齢化は宗教界においても、大きな問題である。人口減少による信者自体の減少、都市部への人口集中による特に地方での檀家の減少、さらには後継者不足などが深刻になる可能性がある。寺の後継者がいなければ、近隣の寺の住職が兼務したり、場合によっては廃寺になることもある。
宗教施設は、学校などと共に地域社会を形成・維持する基盤となるものだ。寺や神社などの宗教施設の減少が続くことは、社会への影響も大きい。
今月のインタビューで話を聞いた沖縄のつきしろキリスト教会の砂川竜一牧師によると、「ここに教会があるので、この地域に引っ越してきました」という人たちが訪ねてくるという。地域の宗教施設が人を惹きつけ、安心感を与えることができるとすれば、これも社会関係資本として宗教が果たす大切な役割である。