大覚寺で観月の夕べ/京都市右京区

大沢池に映える中秋の名月

昇る月の光の下、大沢池を進む龍頭船=京都市右京区嵯峨野大覚寺

 中秋の名月に当たる9月15日から17日まで、京都市右京区の大覚寺で「観月の夕べ」が催された。十五夜の月は17日、晴れた中天に煌々と輝き、雅楽の音が流れる中、秋の気配が近づく大沢池に映える月を多くの参拝者は楽しんだ
 午後6時過ぎ、池の東側に茂る木立の上に、暗くなりきらない群青の空を背景に薄ピンクの満月が上ると、集まった人々から歓声が上がった。池に張り出した特設の桟橋には供物が供えられ、僧侶たちによる読経の声が朗々と響いた。読経と月の光の中、竜頭鷁首(りゅうとうげきしゅ)と呼ぶ龍や架空の鳥・鷁(げき)を船首に象(かたど)った一対の屋形船が、交互に岸を離れて静かに水面を進んだ。池の周囲や堂の上から眺める参観者は、中天の月と水面に揺れる月影の間を、平安時代さながらに進む竜頭船、鷁首船を楽しんだ。
 大覚寺の「観月の夕べ」は平安時代、嵯峨天皇が同寺の大沢池で貴族らと月を愛でた故事にちなむ。大沢池は、奈良興福寺の猿沢池、大津石山寺と共に日本三大名月観賞の地といわれる。
 大沢池は、大覚寺の東に広がり、北嵯峨の山なみを借景として堂塔を映す景観が有名。池は嵯峨天皇の離宮の旧苑池で、中国の洞庭湖を模して造られた日本最古の人工の庭池で、池にある菊ヶ島、庭湖石などは当時のままと伝わる。嵯峨天皇が菊ヶ島に咲く菊を手折り花瓶に挿されたのが、いけばな嵯峨御流の始まりで、生け花発祥の地と言われるゆえんである。
 大沢池の菊ヶ島、天神島、そして庭湖石を加えた「二島一石」をふまえた「景色いけ」として、嵯峨御流は伝わる。嵯峨御流は、生命の根源である水を自然の中の流れに沿って「深山の景」、「森林の景」、「野辺の景」、「池水の景」、「沼沢の景」、「河川の景」、「海浜の景」の「七景」として表す。
 大覚寺は、真言宗大覚寺派の大本山の寺院、山号は嵯峨山、本尊は不動明王を中心とする五大明王。嵯峨天皇の離宮を寺に改めた皇室ゆかりの寺院で、後宇多法皇が院政を行うなど、日本の政治史に深いかかわりをもつ。嵯峨天皇を流祖と仰ぐ華道嵯峨御流の総司所(家元)でもある。