麦秋
2024年6月10日付 812号
麦秋(ばくしゅう)とは秋ではなく初夏の言葉。前年11月下旬から12月上旬にかけてまいた麦の穂が実り、収穫期を迎えるから。麦が熟し、田一面が黄金色に染まり、麦にとっての収穫の「秋」となる。雨が少なく乾燥した季節だが、すぐ梅雨が始まるので、麦秋は数週間と短い。麦を刈った後、すぐに耕運・代かきをし、コシヒカリとは別の苗を植えなければならず、米麦二毛作農家にとって一年で一番忙しい時期。
5月になると、それまで緑一色だった麦畑が次第に黄色に変わり、やがて黄金色になるので、律儀なものだと思う。毎朝眺めながら思い出すのは、「その者青き衣をまといて金色の野に降り立つべし」という『風の谷のナウシカ』のせりふ。黄色に青だとウクライナの国旗なので、世界の穀倉地と呼ばれる黒土の麦畑を連想する。
ロシアのウクライナ侵攻で肥料や飼料が高騰し、稲作から畜産まで農業経営は苦しい。牧場のたい肥を使って化学肥料を抑え、青刈りの稲を牛の飼料に使う農畜連携を農水省は奨励している。
天地子らが作っている麦はうどん用とパン用の小麦を各7ヘクタール。パン用はたんぱく質の含有量を上げるため4月に追肥をまく。ドローンを使うと高いので、背負いの動力噴霧器に20キロの肥料を詰め、広い田んぼを数往復。70代から人生最高の肉体労働をするようになり、おかげで筋肉と脳が鍛えられる。