秩父神社で御田植神事

豊作を祈る予祝神事/埼玉県秩父市

秩父神社境内で「くろぬり」の所作をする神部たち

 4月4日、秩父地方の総鎮守・秩父神社で、一年の豊作を願う「御田植神事」が斎行された。しめ縄が張られた境内を神田に見立て、八大龍王神の御神徳に感謝するため、神社の表の鳥居を水口に見立てる稲わらの龍が巻き付けられた。
 埼玉県の無形民俗文化財に指定されている御田植祭は豊作を祈る予祝神事で、奉仕するのは老若混合の幅広い世代で構成された秩父神社御田植祭保存会の会員たち。作家老は黄色い装束、神部は白い白丁の衣装。作家老を務める浅見弘氏は、伝統の所作を威勢よく演じ、神部たちを鼓舞していた。神楽殿では、第25座「国平の槌」などの奉納神楽が披露され、銀杏飴を投げて参拝者を喜ばせていた。
 午後1時、宮司以下神職・作家老が本殿に昇殿し、社殿前の神部たちと「御田植祭」を斎行。神前には、昨年の新嘗祭に供えられた抜き穂のもみ1升2合が供えられ、豊作を祈念する祝詞が奏上された。玉串を奉奠の後、山の神(水神、龍神)の依代である水麻を宮司が取り出し、大澤孝禰宜から作家老に手渡された。
 午後1時半過ぎ、水乞いの御神幸行列が今宮神社に向かう。神職に先導され、笛と太鼓などの楽士を伴い、水麻を掲げた作家老と竹で作った鍬を担ぐ神部たちが市内を練り歩く。約10分で今宮神社に到着すると、水分神事が行われた。
 今宮神社の神前で新たな水の恵みを宿した水麻を掲げた神部ら一行は、秩父神社に戻ると、作家老は水麻を田の水口をかたどる「藁の龍神」の口に刺す。そして、境内の敷石に龍神様の御神霊が行き渡りそこは一面の水田となった。

秩父市内を練り歩く水乞いの御神幸行列

 午後4時、晴れて春の風が吹き、参拝客が大勢見守る中、伝統の御田植神事が始まった。菅笠・白装束の神部たちが神社境内の敷石を水田に見立てて田仕事の所作を順番に行っていく。「苗代づくり」が始まり、まずは「田打ち」から。「御代の永田に手に手を揃えて、急げや早苗~」と「田植歌」を歌いながら、作家老を先頭に鍬を振り下ろす。次に「くろぬり(畔ぬり)」で、神部は鍬で土をかき揚げ、張り付ける動作をする。
 次は馬を使う「代掻き」。神部2人が鼻取竹(馬)の両側を持ち、後ろから神部1人がササラで馬を叩き、田代を走らせる。馬の役の若い神部は力強く暴れ馬を彷彿させる所作で演じ、周囲は笑いと拍手が沸き起こった。そして、神部が鍬を振りながら「田ならし」をし、作家老と神部一人が籠に入れた種もみを苗代にまく「種籾まき」を行った。この種もみは、昨年の秩父夜祭で大前に供えられたもの。
 続いて「本田づくり」が行われ、再び「田打ち」「くろぬり」があり、「肥料まき」では「カッチキ(刈敷)」と呼ばれる切り藁が敷き込まれた。「代掻き」「田ならし」に続いて「田植え」。神部たちは後ろ向きで苗に見立てたわらを植え、昔の田植えの様に一つ一つ苗を植える所作が演じられた。最後に、秋の収穫を示す「餅まき」があり、無病息災・開運招福をもたらす縁起物の餅が見物客に配られた。
 ユネスコ無形文化遺産に登録されている12月3日の秩父夜祭では、水口の藁の龍神が大真榊を立てる榊樽に巻き付けられ、御神幸行列の先頭を進む。夜祭は豊作をもたらした「お水」を武甲山の山の神に返す新穀感謝の祭り(新嘗祭)でもある。これにより、春の水分祭・御田植祭で始まった水の恵みが一巡し、秩父は無事に新たな年を迎える。