「西田天香と杉本哲郎」展/滋賀県長浜市

長浜ゆかりの思想家と芸術家

 10月29日から12月11日まで、滋賀県長浜市の長浜城歴史博物館(第1会場)と曳山博物館(第2会場)で企画展「西田天香と杉本哲郎─長浜ゆかりの偉大な思想家と芸術家─」が開催されている。主催は「西田天香・杉本哲郎顕彰事業」実行委員会と長浜市で、生誕150年の思想家・西田天香の資料と、同123年の芸術家・杉本哲郎の作品が展示されている。
 27日、長浜市曳山博物館で企画展のオープニングセレモニーが行われた。実行委員会の月の瀬義雄会長は「西田天香・杉本哲郎という立派な方々が、長浜で生まれ、長浜から全国や世界に拡散している事実や考え方が、子供や若者たちに浸透していけば有難い」と挨拶。一燈園の西田多戈止当番は「杉本哲郎の父・善郎さんは天香を国際的な大商人にしようと考えていたのだが、その意に反して北海道の開墾事業に行った。北海道の開墾に挫折した天香は、京都で托鉢を始め、当時、京都市議になっていた善郎さんと再会し、以後深く付き合うようになった」と述べ、また、杉本哲郎顕彰会代表の杉本太郎氏は「展示会を無事に開けたのが何より嬉しい。一燈園、長浜市のおかげだ」と語った。
 西田天香(1872─1968)は明治から昭和にかけて活躍した思想家で一燈園の創始者。青年期に北海道開墾で挫折を経験し、苦悩と求道の日々を重ねた後に大悟した。資本主義が浸透する日本で、「無所有・奉仕」の生活を実践する天香の元に多くの賛同者が集まり、京都鹿ヶ谷に修養道場「一燈園」が建設された。著書『懺悔の生活』はベストセラーになり、実業家や芸術家に大きな影響を与えた。
 杉本哲郎(1899─1985)は西田天香と親交のあった日本画家で、父・善郎が長濱八幡宮で開いた私塾に入門したのが天香だった。哲郎は、近代京都画壇の重鎮である山本春華の画塾・早苗会で絵を学ぶが、後に離れ、インド・アジャンター壁画の模写など、古典に学ぶ仏画を始め、宗教を題材に絵画を残し、世界中で評価されるようになった。
 展示作品の西田天香筆「三円相」(昭和12年 香倉院蔵 曳山博物館で展示)は、禅の悟りを表す円相が三つ描かれ、西田の思想が垣間見える。宗教活動と経済活動の実践が楕円2つで大きな円が真実をあらわすという。韓国出身の洋画家・全和鳳の作品「夏の集まり」(昭和15年 香倉院蔵 長浜城歴史博物館展示)では、京都の蹴上大神宮で行われた一燈園の夏の集まりに参加した子供たちと天香の姿が描かれている。全和鳳も奉天一燈園に入園している。
 杉本哲郎の作品「小倉山の紅葉」(昭和2年 新健康協会蔵 長浜城歴史博物館展示)は、洋画の要素を取り入れて描いた風景画で前半期の作品。また「法悦の釈尊(世界十大宗教壁画)」(昭和44年 新健康協会蔵 曳山博物館展示)は、万教帰一をテーマに昭和44年から12年かけて描かれた杉本の25の連作《世界十大宗教壁画》の一作で、菩提樹の下で瞑想する釈迦が、35歳の時の黎明、明けの明星が輝く時に、悟りを開き仏陀となった瞬間を描いたもの。

「三円相」(西田天香筆 昭和12年 香倉院蔵)
「夏の集まり」(全和鳳画 昭和15年 香倉院蔵)
「小倉山の紅葉」(杉本哲郎筆 昭和2年 新健康協会蔵)