新しい保守連合構築の可能性

連載・宗教で読み解く世界情勢(60)
宗教問題アナリスト 小笠原員利

 米国ではトランプ大統領の容認のもと、政権移行プロセスが開始。国際社会もバイデン次期政権を見据えて動き始めた。一方、今なお(5日時点)トランプ陣営の敗北宣言は出されておらず、法廷闘争を中心に徹底抗戦の構えを崩していない。結果を云々することは時期尚早だが、公表された投票結果から見えてきた事実もある。
 事前の世論調査は軒並み7〜10ポイント差をつけてのバイデン圧勝を示唆していたが、結果は予想を裏切る接戦となった。バイデン氏の得票は空前の8000万票に達したが、一方のトランプ氏も7400万票を獲得。これまで大統領に当選したどの候補をも上回る結果を収めた。コロナ禍の直撃という不運に加え、主要メディアによるネガティブキャンペーンや、TwitterなどSNS大手による差別的扱いに苦しみながらのこの結果は驚くべきものだ。しかし、最も注目すべきは、トランプ氏が獲得した票の数以上に、その内容である。
 主流メディアはトランプ氏を白人至上主義と結び付け、「多様性」を否定する差別と偏見の象徴として描き続けた。彼らのシナリオでは、白人の割合が年々低下する米国で、トランプ氏と白人保守層は「古き悪しき米国」として葬り去られ、リベラルで人種的に多様な新しい米国が生まれるはずだった。しかし、現実には黒人、ラテン系、アジア系といった非白人層の全てでトランプ氏に投票した割合が増加しており、「保守・共和党=差別的、白人至上主義」「リベラル・民主党=寛容、人種的多様性」という構図が、虚構であることが明らかになった。
 これまで企業・富裕層への減税や「小さな政府」を標榜する共和党は「勝ち組」の政党とみなされ、「社会的弱者」であるラテン系や黒人にとっては民主党こそが味方だった。それは文化的には保守であるはずのキリスト教徒においても同様であり、白人福音派が共和党支持であるのに対して、大半の黒人教会は人種的平等や経済格差解消を求めて民主党支持という色分けが明確だった。
 しかし、米国第一主義を掲げ、企業の国内回帰と雇用確保を掲げたトランプ氏の登場が、その構図に変動をもたらしている。格差解消の手段として福祉政策をちらつかせてきた民主党に対して、トランプ大統領は教育と雇用の機会を提供することで成功への希望を提供したのだ。
 トランプ政権による経済再生は、白人だけでなく、米国内に住むあらゆる肌色の労働者にも希望を与えた。貧困問題の解決や格差解消の可能性を共和党に見出した時、非白人労働者は民主党に固執する必要がなくなった。その時、あらためて見えてきたのは、極端に左傾化し、反宗教、反愛国的に変質した民主党が抱えるリスクである。
 非白人を含む広範な保守連合の構築を主張するテキサス州立大学のアシュリーン・バニョーロは、ラテン系の人々が元来、宗教的で家族を大切にする保守的な価値観を持つことを指摘する。これまで経済的困難によって民主党支持の枠に閉じ込められてきた彼らが、トランプ政権のもとで共和党支持に転換する可能性が生まれたのである。
 バニョーロの指摘に従えば、共和党が富裕層、大企業のための政党から、非白人を含むすべての米国人の成功を約束する政党に生まれ変わる時、信仰と家族を大切にする愛国的な人々の、人種横断的な保守連合が誕生する。実際に、共和党の次期大統領候補最有力とみられるニッキー・ヘイリー元国連大使はインド系であり、人種的多様性は民主党だけの専売特許ではない。
 逆にバイデン政権誕生に対する期待とは裏腹に、民主党では深刻な党内対立の顕在化が懸念されている。今回、バイデン候補に投票した8000万人の共通項は「反トランプ」の一点にすぎず、経済政策から歴史観に至るまで穏健派と左派の間には深刻な亀裂が存在するからだ。
 たとえば差別撤廃を訴えるBLM運動の中核には、共産主義者であることを公言し、略奪行為に走り、建国の父の銅像までも引き倒す者たちが含まれている。またLGBT人権活動家の中には、キリスト教的性道徳と家族制度そのものの破壊を目指す過激な性解放論者も存在する。それらは多くのキリスト教徒にとっては受け入れられない価値観だ。
 左派に傾斜する民主党からは、伝統的価値観を持つ非白人キリスト教徒が脱落するだろう。逆に穏健路線を取った場合は、左派の不満が高まり、民主党そのものの分裂に至るリスクが生じる。表面上の結果とは異なり、今回の大統領選挙は新しい保守連合構築に向けた地殻変動の始まりとなるかもしれない。
(2020年12月10日付 770号)