正当性が問われる「宗教的信条」

宗教で読み解く世界情勢(48)
平和政策研究所研究コーディネーター 小笠原員利

 福音派など宗教保守層を支持基盤とするトランプ政権は、国内外で「宗教の自由」を擁護する政策を推進している。これは「LGBTの人権」を掲げて宗教界を追い詰めたオバマ政権とは真逆の姿勢だ。
 11月に入り、健康福祉省は新しい規則を提案した。これもまた、オバマ政権が残した反宗教的な政策を是正するためのものだ。その反宗教的な政策とは、同性カップルへの養子縁組や里親委託を拒む慈善団体に対して、公的資金の助成を禁ずる規定である。
 この規定は、宗教系の慈善団体を直撃した。彼らは「子供には父親と母親がそろった家庭が最善だ」と考えて、同性カップルへの養子や里子の斡旋を断ってきた。言うまでもないが、それはあくまでも子供の利益を最優先に考えた結果であり、差別的感情に基づくものではない。しかし、オバマ政権はそれらの団体を一方的に「差別的」と決めつけ、公的支援を停止したのである。その結果、一部団体は活動停止を余儀なくされた。
 今回の健康福祉省の提案は、この規則に例外規定を設けるものだ。これが施行されると、宗教系の慈善団体は、自らの宗教的、道徳的な信念に基づいて活動し、引き続き公的な助成金を受け取ることが可能になる。養子縁組や里親委託の分野で宗教系慈善団体が果たしてきた功績は大きい。保守層を中心に、この新たな提案は一定の支持を集めている。
 一方、LGBTの支援団体は「里親が不足している状況で同性カップルを除外することは、子供たちの行き場を奪うことになる」と猛反対している。しかし、この反論は的外れだ。今回の提案は、同性カップルが里子や養子を迎えること自体は禁止していない。もし、同性カップルへの養子縁組を積極的に進めたければ、彼らがそのための団体をつくって活動すればいいだけだ。
 宗教の自由を擁護するトランプ政権の一連の政策は、決して宗教団体を優遇し、LGBT差別を助長するものではない。LGBTの人権を錦の御旗にして、保守的な信条を持つ人々の自由を侵害してきたオバマ政権の行き過ぎを是正しているのである。
 ただし、この一連の動きの中で、宗教保守が持つ宗教的・道徳的信条の正当性が問われていることも確かである。その問題を象徴的に表したのが、今年1月に起きたサウスカロライナ州の養子縁組団体「ミラクルヒル・ミニストリー」をめぐる騒動だ。
 同団体は、福音派プロテスタントの信条に基づいて活動しており、当然のことながら同性カップルを委託先から除外していた。問題は、この団体がカトリックなど他宗教の信者夫婦への養子縁組すら拒んでいたことである。彼らが提供するプログラムには、プロテスタントの信仰を持ち、定期的に教会に通っている夫婦しか参加が認められなかった。
 その結果、同団体はレズビアン夫婦から訴訟を起こされたが、カトリック信者からも「ボーンアゲイン・クリスチャン(回心体験をしたキリスト教徒)」でないことを理由に、里親になることを拒否されたとして訴えられた。
 どちらもプロテスタントとしての同団体の信条に基づく判断だが、面白いことに、除外された側のカトリック教会や保守的ユダヤ教団体などからも、宗教活動の自由を根拠にミラクルヒルの方針を支持する声が上がった。しかし、最終的に同団体は、条件付きでカトリック信者を里親として受け入れることを決定した。その条件は「三位一体の神を信じる」などの信仰声明に同意することだ。この新しい基準ではカトリックなど他のキリスト教徒は受け入れられるが、キリスト教の信条を受け入れないユダヤ教徒やムスリムは事実上、除外されたままだ。
 この複雑な対応には、価値が相対化された多元社会における宗教活動の難しさが表れている。里親を男女の夫婦に限定することについては、「同性カップルに育てられた子供は精神的・情緒的問題が2倍ほど多い」という研究結果もあるから合理的説明が可能だ。しかし、他宗教の信者夫婦を除外することに、万民を納得させる合理的理由を見出すことは難しい。だからといって、彼らの信条を守ろうとすれば、ある一定の信仰内容をもつ夫婦に子供を委託するという基準は崩せない。今後も里親基準をめぐるミラクルヒル・ミニストリーの苦闘は続くだろう。
 現代は、いかに長い歴史を持つ宗教的信条といえども、それが不合理な偏見や差別でないことを、説得力をもって示す努力が必要な時代だ。それは確かに試練ではあるが、一方で、自らの宗教的信条の正当性や公益性について絶えず吟味する、貴重な機会にもなっていると言えよう。