過去は未来で変えられる

2019年5月10日付 751号

 タイトルは5月5日、NHK総合の「SONGS OF TOKYO」でのYOSHIKIさんの言葉。
 ゲストのアルゼンチン人のファンに「音楽以外の趣味は何か」と聞かれ、「すべてが音楽につながっていて、境がない」と答え、「趣味よりもっと大切に考えているのが慈善活動だ。それは自分のためでもある。人からの感謝の言葉で、自分の存在意義を見つけられる。人々を支える音楽を作るのが自分の使命だと思った。音楽も慈善活動も同じだ」と続け、慈善活動を始めたきっかけを語った。

生きる意味を知る
 YOSHIKIさんは11歳の時に、34歳の父を自殺で亡くし、平成10年にX JAPANのギタリストのHIDEが急逝したことで精神的に落ち込み、うつのようになって人に接することができず、家に引きこもって、表舞台には一切上がらずにいた。
 そんなとき、上皇陛下の「天皇陛下御即位十年をお祝いする国民祭典」の奉祝曲の制作依頼を受け、平成11年11月12日に皇居前広場で行われた式典で作曲したピアノ協奏曲「Anniversary」を演奏した。そこで受けた歓声が再起の契機となり、人を助ける活動を始め、そこに生きる意味を見いだしたという。以後、積極的な慈善活動を内外で行っている。
 YOSHIKIさんは「だれにでも生まれてきた使命というものがあり、それを探すのが人生ではないかと思う。メンバーを失って人生は終わったと感じ、自分には音楽しかないが、ステージに立つ自信がなくなった。そんなとき、たまたま奉祝曲の作曲依頼を受け、何かに導かれたかのように感じ、最後の力を振り絞って書いた。一つのメロディーを決め、喜びは長調で、悲しみは単調で表現し、明るい未来に向かって力強く終わるように作曲した。そして皇居前広場のステージに立ったとき、歓声を浴びて、ぼくの生きる道はステージなんだと改めて感じた。人は生かされているのだと思う。生かされている限りは、頂いた生命を思い切り生きていきたい」と語り、「過去は未来で変えられる(The future can change the past)」と結んだ。悲しみや苦しみの過去も、未来への希望で書きかえることができるのである。
 生物学者の福岡伸一青山学院大学教授は、生命は機械ではなく流動体で、常に変わり続けていると言う。細胞は生まれ、死に続け、約3カ月で体のほぼすべてが入れ替わるので、その意味では個人の継続性はない。それを維持させているのは、記憶であり、周りの人や環境とのかかわりである。
 とりわけ、人は人とのかかわりを通して自分とは何か、気づかされ、考えさせられる。その積み重ねが人を成長させ、社会を形成してきたのである。「象徴とは何か」を求め、「全身全霊」で公務に祭祀に取り組んでこられた上皇陛下との出会いで、それを感じた人たちも多い。天皇とは、そのお方に触れることで、日本人としての私とは何か、一番考えさせてくれる存在かもしれない。

日本の未来に希望を
 上皇・上皇后両陛下が探求してこられた「象徴」としてのあり方を、今上天皇・皇后両陛下もさらに探求し続けていかれる。国民の多くが、その歩みを共にしたいと思っていることだろう。そうした天皇をいただいている国民であることが、いかに貴重か、令和の時代に再考してみたい。
 グローバリズムが進展する一方で、大国が自国中心主義を唱え、排外主義が各国国民の間に高まっている。そんな時代に、留学経験のある両陛下が、日本の行くべき道をどう表現されるだろうか。
 イギリスの国民投票によるEU離脱の選択を見ても、賛否が拮抗する状況では民主主義はうまく機能しないことがよく分かる。諸外国と比較しても、天皇という存在が日本の民主主義に安定をもたらしており、君主制と民主主義は矛盾しないばかりか、むしろ相乗効果があると言えよう。国民一人ひとりも日本人としての生き方を探求し続けることで、両陛下と共に、日本の未来に希望を見いだしていきたい。