東西冷戦は真の終結を迎えるか

宗教で読み解く世界情勢(39)
平和政策研究所研究コーディネーター 小笠原員利

 30年続いた平成の御代が終わりを告げようとしている。去る11月30日には、平成元年1月に大統領に就任したジョージ・H・W・ブッシュ第41代米国大統領が死去し、世界的にも一つの時代が区切りを迎えた。冷戦終結を主導した同大統領の死去と時を合わせるかのように、世界のメディアは「新冷戦の始まり」を喧伝している。
 しかし、現在の状況は「新冷戦」と呼ぶよりも、水面下で継続していた東西冷戦の最終的な決着をつける局面と呼んだ方が正しいかもしれない。なぜなら、東西冷戦は完全には終わっていないからだ。ドイツ統一とソ連崩壊をもって西側諸国は「冷戦終結」を宣言したのだが、ユーラシア大陸の反対側では、共産主義国家の問題は何ら解決されてはいなかった。いうまでもなく、韓半島の南北分断と中国共産党の一党独裁の問題だ。
 ソ連と東欧諸国で共産党政権がことごとく崩壊し、その歴史の暗黒面が白日のもとにさらされたのとは対照的に、中国共産党と北朝鮮労働党は、その体制に一点の傷を負うこともなく、この30年間を生き延びてきた。いや、単に生き延びただけではない。北朝鮮は核や長距離弾道ミサイルの開発を継続し、中国に至っては、経済、軍事、外交などあらゆる分野で、米国の覇権を脅かすほどの力を付けた。少なくとも北朝鮮や中国指導部にとって、東西冷戦は終わっていないのだ。
 オバマ政権末期から、米国は事態の深刻さにようやく目を向け始めた。かつて親中派だった、ハドソン研究所中国戦略センター所長で国防総省顧問のマイケル・ピルズベリーは2015年に『100年マラソン』を著し、毛沢東以来「100年の計」をもって虎視眈々と世界の覇権を目指してきた中国の長期戦略に警鐘を鳴らした。彼は、これまでの中国に対する抱擁的な関与政策は間違いであったと断じ、「米国はじめ西側諸国は騙されていた」と結論付けた。
 実際に、世界第2位の経済大国となった中国は、特に2012年の習近平政権誕生以降、もはや世界の覇権国家を目指す意図を隠さなくなった。「一帯一路」政策の推進や南シナ海の軍事基地化、台湾包囲網の構築など、積極的な対外進出政策を進める一方で、国内においては思想の引き締めをはかり、高度なIT技術を駆使して国民の日常生活に対する監視体制を構築しつつある。ウイグルやチベットなど少数民族への非人道的な抑圧政策や、地下教会の迫害は言うまでもない。冷戦期に世界各地で多くの悲劇を生み出した共産党一党独裁の性質は、全く変わっていないのである。
 中国の野望阻止は、民主、共和を問わず、いまやワシントンの総意となった。トランプ政権の対中強硬姿勢は、トランプ個人や政権中枢にいる保守派の気まぐれなどではない。米国の本気は同盟国にも影響を与え、次世代通信システム(5G)からの中国企業排除の動きが強まっている。世界中の情報インフラの中枢を中国共産党に握られることの恐ろしさに、西側の指導層がようやく気付いたのだ。
 現在、中国国内で習近平指導部が推し進める情報統制と国民監視のシステムが、世界全体に適用された場合、どんな未来が来るのだろうか。全人類、いや、私たち一人ひとりの自由と人権は深刻な危機に晒されるだろう。その危険が最も大なのが宗教であることは言うまでもない。現実に中国では、あらゆる宗教が共産党の管理下に置かれ、説教は監視され、一定人数以上の集会や布教活動も制限されている。
 西側の民主主義社会にほころびが出ていることも確かだが、非人間的な共産党支配よりも、基本的人権が守られ、良心の自由に基づく発言や行動が保障される社会の方が望ましいことに疑いの余地はない。
 果たして、トランプ政権が主導する対中包囲網は、真の冷戦終結をもたらすだろうか。貿易をめぐる米中対立では、中国側がじりじりと追い詰められ、強制的な技術移転の禁止など大幅な譲歩を余儀なくされている状況だ。ただし、トランプ大統領がビジネス面での成果のみをもって満足するなら、決して真の問題解決とはならないだろう。人権問題や宗教弾圧を含めた中国共産党の本質が変わらない限り、彼らの世界覇権を目指す「100年マラソン」は終わらないからだ。年末に入り強気の発言が目立つ北朝鮮の動向とあわせ、新年の幕開けは予断を許さないものとなりそうだ。
(2019年1月10日付747号)

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