家庭、共同体の再建と宗教の役割

宗教で読み解く世界情勢(38)
平和政策研究所研究コーディネーター 小笠原員利

 十一月二十四日、台湾で同性婚をめぐる国民投票が行われ、婚姻を男女間に限定する現行民法を支持する意見が圧倒的多数を占めた(賛成七百六十五万、反対二百九十万)。台湾では今年五月に司法院大法官会議が同性婚を認めない民法を「憲法違反」と判断し、二年以内の同性婚合法化を勧告していたのだが、今回の投票で一定の歯止めがかけられた形だ。
 今後、同性カップルのための制度は民法の婚姻規定とは別に定められることとなり、男女の婚姻と完全に同等とは認められない見込みである。おそらく養子縁組や生殖医療で子供を持つことは認められない可能性が高い。
 今回の投票を推進した中心的勢力はキリスト教系団体を核に結成された「下一代幸福聯盟(次世代の幸福のための聯盟)」だった。台湾においてキリスト教徒は人口の5%未満とみられているが、信仰にもとづく強い危機感が国民運動の原動力となり、結婚や家族のあり方を守ろうとする多くの良心的な台湾人を動かしたのである。
 米国でも同性婚に最も強く反対したのは敬虔なキリスト教信仰を持つ福音派だ。彼らは連邦最高裁において「五対四」で敗北し、全米での同性婚合法化を許してしまったが、その後トランプ大統領の当選を後押しすることで最高裁に二人の保守派判事を送り込むことに成功した。今回の中間選挙でも福音派はトランプ氏の忠実かつ強固な支持基盤として機能し、LGBTの権利擁護に積極的な民主党の躍進を最低限に抑える役割を果たした。
 このように現在、全世界のキリスト教徒にとって最も大きな関心事の一つが、一夫一婦の結婚・家族制度を擁護することである。彼らは決して同性愛者や性別違和を抱える人々を差別するわけではないが、ただでさえ事実婚や離婚の増加によって婚姻制度の形骸化が進むなか、同性婚を異性間の結婚と同等に扱うことは、一夫一婦の結婚に致命的な打撃を与えることになると懸念しているのだ。
 一夫一婦の結婚は、聖書的な根拠を持つだけでなく、現実的にも妥当性を持っている。夫婦が貞操を守り、長期的で安定した関係を築くことは、子供の養育環境を整えるうえで決定的に重要だ。離婚が増えるなど家族が不安定化すると、子供の未来のみならず、経済的、政治的に多くの社会問題を生み出すことが分かっている。
 宗教が、人々から苦しみを取り除き、喜びや幸福に至らしめる使命をもっているなら、一夫一婦の安定した結婚と家族を擁護するために立ち上がるのは自然なことだ。
 昨年、ピュー研究所が米国人を対象に実施した調査では、「人生にとって最も重要な意味をもたらすものは何か」という問いに対して「家族」(40%)との答えがトップとなり、第二位として「宗教」(20%)が続いた。ある意味でこの両者は車の両輪ともいえる。篤実な信仰や宗教的徳目の実践が家庭生活の充実をもたらす一方で、良好な親子関係によって宗教的信仰が次世代へと受け継がれていく。逆に宗教が衰退すれば家庭も不安定化し、家庭や共同体における世代間の断絶は結果として宗教の衰退をもたらす。
 ちなみに米国では家庭崩壊を食い止めるために、宗教が大きな役割を果たし得ることを示唆する事例も現れた。フロリダ州ジャクソンビルでは、結婚生活の質を向上させるプログラムを実施することにより、二年間で28%も離婚率が減少したが、ブリガムヤング大学のアラン・J・ホーキンス教授は、同プログラムがキリスト教会を通じて提供されたことが成功の要因だと考えている。
 一般的には、こうしたプログラムの開催を周知すること自体が難しく、「人目が気になる」など実際に参加する際のハードルも高い。さらにプログラムに継続して参加することも相当の動機がなければ難しい。
 しかし、教会コミュニティであれば情報の伝達も容易で、結婚を重視する教義があるために夫婦そろって参加することも自然だ。さらに、コミュニティの中で励ましあい、継続してプログラムに取り組むモチベーションも維持しやすい。夫婦など家族関係を改善する取り組みには宗教的コミュニティが非常に適しているのだ。
 同性婚への反対が一夫一婦の結婚を守るための防御的運動であるとすれば、結婚そのものの価値を回復しようとするこうした取り組みは、より積極的な意味を持つだろう。
 家庭や地域社会の衰退によって、宗教の衰退がもたらされている事情は日本も同じである。宗教自体の命脈を保つためにも、信仰が伝達される場としての家庭、共同体の再建に取り組むことが重要だ。
(2018年12月10日付746号掲載)