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[連載・宗教で読み解く世界情勢 No.43]

信仰の継承が米国の未来を決める

 米中の貿易摩擦はすでに貿易「戦争」の域に達した。中国からの輸入品に対して、米国は既に3次にわたる追加関税を実施。今後、予定されている4000億ドル規模の第4弾が実施されれば、中国からの、ほぼすべての輸入品に高額の追加関税が課されることになる。中国も対抗措置で応じてきたものの、ここにきて息切れが目立ち、国内経済への深刻な打撃も指摘されている。
 いうまでもなく、これは単なる経済の問題ではない。米国の強硬姿勢の背後には、世界の覇権を争うライバルとして本格的に台頭してきた中国に対する強い危機感がある。中国企業「ファーウェイ(華為技術)」に対する露骨な排除政策にも、米国の本気度が表れている。同社は、次世代通信規格「5G」をめぐって欧米企業などに先行し、各国の情報インフラの基幹部分を掌握しつつあった。
 共産党一党独裁の中国が世界の技術・情報分野の覇権を握ることは、中国式の監視社会が地球規模に拡大することを意味する。既に中国国内では、インターネット検閲や2億台に上る監視カメラの設置によって、中国国民の一挙手一投足を党中央が監視する体制が出来上がっている。その監視対象が全人類へと拡大する危険があるのだ。当然のことだが、我々日本人にとっても決して無縁な話ではない。
 経済、安全保障に加えて、昨年10月のペンス副大統領演説以来、米政府は、中国の人権問題に対する批判も「解禁」した。天安門事件30周年に際しても、米国務省の報道官は、「徹底した虐殺」というこれまでになく強い表現を用いて、当時の中国当局による人権弾圧を非難した。
 こうした米国の強硬姿勢には、宗教的な側面があることも無視できない。具体的にはキリスト教福音派によるトランプ政権への働きかけだ。彼らは中国国内の人権問題、なかでも「信教の自由」の問題に深い関心を寄せている。冷戦終結後、改革開放政策の波に乗って、中国国内ではキリスト教会が大きく成長した。
 しかし、習近平主席の就任以来、共産党は思想的な引き締めを図り、宗教活動に対する統制を強めた。宗教の「中国化」を唱えつつ、外国との交流を遮断。厳格な登録制度の徹底と、監視カメラによる礼拝内容の検閲などを通して、中国国内のキリスト教徒は、迫害の恐怖におびえつつ信仰生活を送っている。米国が、中国の人権問題に焦点を当て始めたことには、中国のキリスト教徒に対する福音派の強い関心が反映しているのだ。
 中国問題以外でも、エルサレムへの米大使館移転やゴラン高原の主権容認といった一貫したイスラエル寄りの政策に加え、返す刀でのイランに対する強硬姿勢など、トランプ政権の外交政策には福音派が重視するアジェンダが前面に出されている。
 国内政策についても同様だ。保守派の最高裁判事の任命に続き、各州で制定が相次ぐ厳格な中絶禁止法についても、トランプ大統領は積極的に支持する意向を表明した。来年の大統領選挙での再選戦略を構築するうえで、大票田である福音派を無視することはできないからだ。
 2016年の時点で、白人福音派は選挙民全体の26%を構成し、そのおよそ8割がトランプ氏に投票した。票数にするとトランプ陣営の得票6300万票のうち2500万票以上を占める計算である。彼らは、ロシア疑惑などで政権が窮地に陥った時期にも、岩盤支持層となって政権を支え続けた。こうした最も忠実な支持者に対して、トランプ政権も現実的な政策の実行をもって応えている。
 トランプ政権と福音派の蜜月はいつまで続くだろうか。いうまでもなく、次回の大統領選挙における勝利が必須条件だ。選挙戦で福音派が引き続き大きな役割を果たすことは間違いないが、不安材料がないわけではない。それが米国全体で起きているキリスト教の退潮傾向だ。その傾向は福音派といえども例外ではない。特に、福音派最大の集票マシーンである南部バプテスト連盟(SBC)は、近年、会員数の減少に悩んでいる。総会員数は2014年の1550万人から18年には1481万へとわずか4年間で70万人も減少し、会員の高齢化も進んでいる。
 SBCの実情を分析すると、必ずしも離教者が多いわけではなく、信仰の継承がネックになっていることがわかる。SBCの信仰をもつ家庭で育った子供のうち、半数近くが成人するまでに信仰を失っているのだ。この傾向に歯止めをかけなければ、一世代が経過するうちにSBCの勢力は半減するだろう。米国内外の政策に、福音派が継続して影響力を及ぼせるかどうかのカギは、各家庭内における信仰の継承にかかっている。

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