人口動態から見る宗教地図の変化

連載・宗教で読み解く世界情勢(76)
宗教問題アナリスト・小笠原員利

  厚労省によると2021年の日本の出生数は約81万人で、最も多かった1949年の269万人に比べると実に3分の1の水準だ。出生率も1・30で前年よりもさらに低下し、人口減少には歯止めがかかっていない。
 ちなみに少子化対策では、フランス、スウェーデンなどの事例が挙げられるのが常だが、実際にこれらの国がモデルになるかと言えば非常に怪しい。2020年の出生率は、フランスが1・83、スウェーデンが1・66で、いずれも日本よりは高いものの、人口維持に必要な2・07には届いていない。スウェーデンに至っては2010年の1・98以降、減少傾向が顕著である。しかもこれら両国は、出生力が高い移民の数字を含んでおり、もともとのフランス人、スウェーデン人に限ると、出生率はもっと下がる。テスラ創業者のイーロン・マスク氏が、このままの少子化傾向が続けば「日本はいずれ消滅する」とツイートして物議をかもしたが、これは西側先進諸国の白人にもあてはまる懸念である。
 一般的な傾向として、経済が発展して福祉やインフラが整うと、乳幼児死亡率が下がり、それにともなって子供の数も減っていく。あわせて生活における家族や共同体の重要性が下がり、自己実現など個人の人生を充実させることに人々の主要な関心が移る。日本でもその傾向は顕著であり、「結婚していない理由」では、圧倒的に多い「出会いがない」に続いて、「自由や気楽さを失いたくない」「趣味や娯楽を楽しみたい」などが上位を占める。
 第二次安倍政権の7年間は、雇用も順調に推移し、何より保育の受け皿が220万人から290万人に増加したが、出生率は改善せず、むしろ微減となった。北欧諸国でも少子化が進んでいることを考えれば、教育無償化もそれほど効果はないだろう。非婚・晩婚化や少子化には雇用や子育て環境だけでなく、個人主義的な価値観も強く影響しているからだ。
 もう一つ、経済発展に伴う少子化や結婚離れと歩調を合わせて進むのが、宗教離れである。出生率が低い先進諸国は、米国を除き、「宗教が非常に重要だ」と答える40歳以下の成人の割合も極端に低い。ちなみに米国のピュー研究所が行った調査では、その割合が最も低いのが中国の3%で、日本が4%で続いている。日本は無神論共産主義を公式に掲げる中国に次いで、非宗教的な国家なのである。
 逆に、アフリカ諸国を中心に出生率が高い国では、のきなみ宗教を重視する若者が多数派となっている。ちなみに先進国の中で突出して出生率が高いのはイスラエルの2・9だが、同国で出生率を押し上げているのは正統派ユダヤ教徒の女性であり、彼女たちは平均して約6人の子供を産んでいる。ここに多産を神の祝福と捉える信仰が影響していることは間違いないだろう。もちろん、信仰と出生率の因果関係は安易に断定できないが、この現象がもたらす結果ははっきりしている。それは、世界の宗教地図の変化である。
 まず、イスラム諸国の出生率の高さは、キリスト教を抜いてイスラムが世界最大宗教になる未来を約束する。ピュー研究所の予測では2060年にはキリスト教徒が31億人、イスラムが30億人でほぼ拮抗し、その後はイスラム優位となる。
 次に、アフリカ諸国の人口増加は、そのまま各宗教に占めるアフリカの比重を増大させる。このことは特にキリスト教に大きな変化をもたらすだろう。すでに2010年の時点で、世界のキリスト教人口21億人のうち、ヨーロッパが5・5億人、中南米とアフリカがそれぞれ5・3億人で拮抗していた。それからさらに10年が経過し、人数だけでも既にアフリカが抜け出しているとみられるが、信仰の深さにおいても、形式的信仰に陥ったヨーロッパを、アフリカが圧倒していることは間違いない。
 つまり、キリスト教が白人中心の欧米諸国の宗教から、アフリカ中心の宗教に様変わりしていくということである。先回もカトリックの司教会議や合同メソジストの総会でアフリカ出身の聖職者や信徒が存在感を示していることに触れたが、その傾向はますます強まるだろう。
 欧米のキリスト教会はリベラル化が進み、同性婚合法化などの文化的潮流に流される傾向が顕著だが、アフリカや中南米で勢いをもつ福音派、なかでも霊的体験を重視するペンテコステ派は社会問題についても保守的傾向が強い。世界は必ずしも一直線に世俗化に向かうわけではないのだ。今回のウクライナ問題をめぐっても、アフリカ諸国は必ずしもG7と歩調を合わせていない。今後の国際的な潮流を読むうえで、欧米中心の思考に限界があることは確かだろう。(2022年6月10日付 788号)