米中間選挙でヒスパニック票の行方は?

連載・宗教で読み解く世界情勢(72)
宗教問題アナリスト・小笠原員利

  2022年は米国中間選挙の年である。一般的にも現職大統領の党が苦戦する傾向があるが、特にバイデン政権が低支持率にあえぐなか、民主党にとっては厳しい予測が並ぶ。
 2020年の選挙では、民主党は大統領職に加え、上院、下院ともに実質的に過半数を占める「トリプル・ブルー(青は民主党を表す)」を実現したが、上院は50対50で拮抗、下院でもリードは9議席にとどまる。今回、上院は3分の1の34議席が、下院は全435議席が改選となる。上下両院のいずれかで共和党が勝利した場合には「ねじれ」が生じ、バイデン氏の政権運営はさらに厳しくなるだろう。
 選挙の動向に影響を与える要素の一つが人口動態で、2021年8月に国勢調査の結果が発表され、米国の人種別構成比に大きな変化が生まれていることが明らかになった。20年4月1日時点で総人口3億3145万人のうち、最大なのは引き続き白人だが、その割合は10年の63・7%から57・8%に5・9ポイントも下落した。一方でヒスパニック(またはラテン系)は16・3%から18・7%へと急拡大している。黒人(またはアフリカ系米国人)は12・2%から12・1%とほぼ横ばいだ。
 実数としても5050万人から6210万人へと23%の伸びを示したヒスパニックの勢いが目立つ。ヒスパニック以外の伸びが4・3%だったのに対して、5倍以上の伸び率である。2000年(3530万人)以降のわずか20年で倍増したヒスパニックの割合は、今後も拡大を続ける見込みだ。
 一般的には、共和党支持層は主に白人、男性のイメージが強く、人種的マイノリティの比率増加は民主党有利に働くように見える。実際に歴代大統領選挙の投票先をみても白人の6割近くが共和党候補に投票してきたのに対し、黒人は9割前後が民主党候補に投票してきた。ヒスパニックも同様の傾向があり、2004年のブッシュ(44%)対ケリー(53%)を除けば、おおむね6割台後半から7割が民主党候補に投票してきた。
 しかし、中間選挙を前にしてウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙が2021年11月に実施した世論調査では衝撃の結果が出た。選挙が実施された場合の支持政党として民主、共和が37%ずつで拮抗したのである。さらに24年の大統領選挙が前回と同じ顔合わせで行われたと仮定した質問でも、バイデン氏44%、トランプ氏43%となった。
 ちなみに2020年の出口調査ではバイデン氏65%、トランプ氏32%とバイデン氏が2倍の支持を集めていた。この時はバイデン氏が得票数でも700万票上回っていたが、もしもトランプ氏がヒスパニックの4割を超える票を集めるとしたら、その差は300万票ほどに縮まる。前回は新型コロナでトランプ氏に不利な状況が生まれていたことを加味すれば、十分に逆転できる数字だ。もしこの調査結果が実際の投票行動に反映すれば、中間選挙でもヒスパニック票が共和党の議席を大きく押し上げることになるだろう。
 問題は、この変化が一時的なものか、それとも長期的な傾向なのかだ。WSJの調査では、他の人種グループと比べて、ヒスパニックは現在の経済状況により不満を拡大させており、インフレ抑制、連邦赤字削減などを共和党に期待していた。彼らは米国経済が好調だったトランプ時代への回帰を期待している。もし、共和党へのシフトが経済的理由だけであれば、経済が好転すればヒスパニックの多くは民主党支持へと回帰するだろう。
 しかし一部には、この変化は、より本質的なものだと指摘する見方もある。WSJは人口統計学者ルイ・テシェイラの「多くのラテン系の有権者は民主党が彼らの最大の関心事から遠ざかっていると見なすようになった。…法執行を支持せず、国境の安全を緩め、人種格差に焦点をあわせすぎている」とのコメントを引用した。
 2021年11月、民主党から共和党に移ることを宣言したテキサス州議会議員のライアン・ギレンも同様に語った。「南テキサスで何かが起こっている。私たちの多くはワシントンの人々の価値観が私たちと異なるという事実に気づき始めている」「警察予算を削減し、石油・ガス産業を破壊するイデオロギーと、国境でのカオスは南テキサスに住む私たちにとって破滅的なものだ」
 そもそもヒスパニックには敬虔なカトリック教徒が多く、中絶に対する姿勢など民主党の主張があまりに左に傾いていると懸念する層も少なくない。もし、ヒスパニックの共和党シフトが価値観に基づくものであれば、この変化はより持続的なものになるだろう。
(2022年2月10日付 784号)