令和3年全国戦没者追悼式/日本武道館

天皇皇后両陛下が追悼と平和の祈り

黙祷を捧げられる天皇皇后両陛下

 終戦後76年の令和3年8月15日に東京都千代田区の日本武道館で全国戦没者追悼式が開催された。当日は、天皇皇后両陛下が御臨席され、菅義偉内閣総理大臣、衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官、各国務大臣、各都道府県代表、関係団体の代表ら合わせて約200人が参列し、約310万人を数える全戦没者に追悼の誠を捧げた。
 この追悼式は、昭和57年(1982)の閣議決定「『戦没者を追悼し、平和を祈念する日』について」に基づき、政府主権の下に行われるもの。
 午前11時51分、開会が宣言され、全員が起立して両陛下を迎える。国歌斉唱に続き、菅義偉内閣総理大臣が式辞を述べた。
 「祖国の行く末を案じ、家族の幸せを願いながら、戦場に斃(たお)れた方々。戦後、遠い異郷の地で亡くなられた方々。広島や長崎での原爆投下、各都市での爆撃、沖縄における地上戦など、戦乱の渦に巻き込まれ犠牲となられた方々。今、すべての御霊の御前にあって、御霊安かれと、心より、お祈り申し上げます。今日、私たちが享受している平和と繁栄は、戦没者の皆様の尊い命と、苦難の歴史の上に築かれたものであることを、私たちは片時たりとも忘れません。
 未(いま)だ帰還を果たされていない多くのご遺骨のことも、決して忘れません。一日も早くふるさとにお迎えできるよう、国の責務として全力を尽くしてまいります。
 戦争の惨禍を、二度と繰り返さない、この信念をこれからも貫いてまいります。我が国は、積極的平和主義の旗の下、国際社会と力を合わせながら、世界が直面する様々な課題の解決に、全力で取り組んでまいります。今なお、感染拡大が続く新型コロナウイルス感染症を克服し、一日も早く安心とにぎわいのある日常を取り戻し、そして、この国の未来を切り拓いてまいります」
 両陛下は標柱の前に進み深く一礼される。正午の時報に合わせ一分間の黙祷を捧げられた。両陛下に合わせ、参列者が同様に黙祷を捧げた。
 天皇陛下がお言葉を述べられた。
 「本日、『戦没者を追悼し平和を祈念する日』に当たり、全国戦没者追悼式に臨み、さきの大戦において、かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い、深い悲しみを新たにいたします。
 終戦以来76年、人々のたゆみない努力により、今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが、多くの苦難に満ちた国民の歩みを思うとき、誠に感慨深いものがあります。
 私たちは今、新型コロナウイルス感染症の厳しい感染状況による新たな試練に直面していますが、私たち皆がなお一層心を一つにし、力を合わせてこの困難を乗り越え、今後とも、人々の幸せと平和を希求し続けていくことを心から願います。
 ここに、戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ、過去を顧み、深い反省の上に立って、再び戦争の惨禍が繰り返されぬことを切に願い、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、全国民と共に、心から追悼の意を表し、世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります」
 大島理森衆議院議長、山東昭子参議院議長、大谷直人最高裁判所長官の追悼の辞の後、昭和19年10月に中国で戦病死した、柿原輝治陸軍上等兵の子・柿原啓志氏が遺族代表として追悼の辞を述べた。
 「先の大戦が終わりをつげてから、76年という時を数えても、私達遺族は国の為に戦場において、無念にも散華された戦没者の方々のことを忘れることはありません。時代の流れが変わり、戦争という認識が薄れていく今日であっても、なお私たちは失った家族の面影を求め、思いを馳せております。遺族会を結成して、悲しみを力に変え、日本の平和と繁栄を祈ってまいりました。しかし、私達も時の流れと共に年老いて参ります。これからの世代の方々へ遺族の思いをつなげていくために、私たちは今一度力を合わせて平和の大切さを訴えようとしています。今日の平和と繁栄は尊い犠牲の上に立ち、犠牲として亡くなられた人々は今の日本に暮らしている人々と同じようにごく普通の生活を過ごしていた方たちであったことに、どうか気がついていただきたい。そしてその方たちの命が途中で消えてしまい、国の礎になったことに感謝の心を持っていただきたいと思います」
 献花となり、菅総理大臣、衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官、日本遺族会会長、各都道府県遺族代表、一般戦災死没者遺族代表、原爆死没者遺族代表、青少年代表、衆議院副議長、参議院副議長、各国務大臣、各政党代表、各団体代表者が戦没者に黄色菊を捧げた。最後に田村憲久厚生労働大臣が献花して、式典は滞りなく終了した。