相大二郎氏が名誉学園長に/一燈園燈影学園

『日本一小さな私立学校の大きなこころを育む教え』を上梓

相大二郎燈影学園名誉学園長

 京都市山科区にある学校法人燈影学園は小・中・高校合わせて生徒数は約120人で、一学年10人ほどの「日本一小さな学校」。一燈園に生まれ育った相大二郎氏は同校で60年教鞭を執り、約40年、学園長を務め、今年4月から名誉学園長になった。近著『日本一小さな私立学校の大きなこころを育む教え』(PHPエディターズ・グループ)で、一燈園という生活共同体の価値観に支えられた教育が語られている。
 同校は一燈園を創始した西田天香により、同人子弟の教育のため大正13年に創設された燈影塾が前身。昭和5年に小学部・幼稚部が設置され、昭和8年に小学部が燈影尋常小学校となり、昭和22年に新制中学校として認可され燈影学園中学校になった。昭和26年、学校法人燈影学園が認可され一燈園小学校・中学校と名称を改め、翌27年には高等部が一燈園高等学校として、昭和42年にいずみ幼稚園が認可されたことにより、幼稚園から高等学校までの一貫した学園が完成した。
 昭和53年には日本ユネスコ協会連盟より国際理解教育活動最優秀賞を受賞、また一燈園は、長年のボランティア活動により平成5年にアルベルト・シュバイツァー賞を受賞した。相氏は平成23年、「教育者 文部科学大臣表彰」を受けている。
 同校では教員は先生ではなくさん付け、著者は「大二郎さん」と呼ばれている。80歳の時、大二郎さんは小学1年の女児から、「こころといのちは、なにがちがうんですか。おしえてください」という手紙をもらう。それに、まだ的確に答えられないことに気づいた大二郎さんは、6年間、女児と一緒に考え続けた。
 卒業式の答辞で彼女が語ったのは、「朝ごはんの時に生まれた一つのなぞに、大二郎さんは礼堂(禅堂)でことあるごとに話してくださいました。低学年の時は全く分かりませんでしたが、だんだんと深く考えられるようになり、卒業を前にこう考えました。『命』は私たちを生かすものであり、『心』は生きるために必要な考えや感情を創りだすものであるということです」。今の日本に、こんな教育をする学校があるのに驚かされる。
 著者は、教育には「教わる・伝わる・気づく教育」があるという。学校としての内容を満たしながら、家庭的な学園生活を通して人としての大切なことが伝わり、一人ひとりが気づくことで、生きる力と知恵が身についていく。西田天香の教育論は、親からもらった子どもの光を拝み、輝かせる「拝育」。毎朝、15分間の瞑想で一日が始まり、昼食は黙食で、気づきの時間になる。
 校是は論語からとった「行餘学文」。朝の瞑想で心を、作務で体を育てながら知識を学ぶ。リトミックや武道、日本舞踊などで体の動かし方を学び、ソロバンで右脳を鍛え、行願(ぎょうがん、トイレ掃除)などの奉仕活動でコミュニケーション力や社会性を磨いている。
 学園長になった大二郎さんは、このままだとやがて生徒がいなくなることに気づき、平成元年から一般にも開放。以来、一燈園という価値観に基づく教育に賛同する人たちの子どもが通うようになった。イギリスから来た生徒たちもいて、今では、その子どもたちが一燈園を輝かせ、天香さんの思想を生かしている。(2020年9月10日付 767号)