子供の健全な「性意識」を守れ

宗教で読み解く世界情勢(45)
平和政策研究所研究コーディネーター 小笠原員利

 わが国でも性的少数者の人権運動が危険水域に入りつつある。大都市圏を中心に、なし崩しに同性パートナー制度の導入が進んでおり、2月には同性婚合法化を求める憲法訴訟も始まった。なかでも、特に深刻な影響が懸念されるのは教育分野である。
 電通ダイバーシティ・ラボが2015年に「LGBTは人口の7・6%」との調査結果を発表して以来、「クラスに2〜3人は当事者がいる」との認識が広がり、学校現場での対応の必要性が叫ばれ始めた。
 各地の教職員研修でも、当事者や支援団体が、性的少数者への理解を深める教育の必要性を訴えた。その結果、小中学生にまで「多様な性」を扱う授業が広がりを見せている。関東を中心に啓蒙活動を展開する認定NPO法人「ReBit」だけでも、これまでに500回、約3万5000人の児童生徒・教職員に研修を行ったという(同法人HPより)。
 こうした授業では、「性別は男女だけではなく、グラデーションだ」「異性だけでなく同性を好きになってもいい」などの考え方が語られている。実際に同性愛者が招かれて経験談を語ったり、性的少数者をテーマにした映像や読み物が使用されることもある。
 たとえば、小学校の読み聞かせ教材に『王さまと王さま』という絵本がある。結婚しない王子を心配した女王が、各国の王女を連れてきて、なんとか王子を結婚させようとする物語だ。王子は結局、最後に連れてこられた王女に付き添っていた王子に惹かれ、王子と王子の結婚を祝う同性婚祝賀の場面で締めくくられる。果たして、こうした絵本を小学生に読み聞かせることに問題はないのだろうか?
 思春期前の子供は、性意識も含めて自我が非常に不安定だ。ReBitの活動を紹介した記事でも、「今まで普通と思っていたけど、普通はないんだと思った」という小学女児の感想や、授業後に、初めて自分が当事者ではないかと気づいて相談してくる子供がいることも紹介されている。これは決して好ましい事例ではない。本来、当事者でない子供たちの性意識が混乱している可能性があるのだ。
 実際に、欧米では性的少数者の情報があふれる中で、子供たちが自らを当事者と思い込んでしまう事例が現れている。英国ロンドンのクリニックでは、過去9年間で性同一性障害の相談が26倍に激増した。英公共放送「チャンネル4」では、精神的に不安定な女性が、インターネットで「トランスジェンダー」という言葉を知り、自らが当事者だと思い込んだ事例が紹介された。彼女は16歳から男性ホルモンを服用、23歳で両乳房を切除した。しかし、ある男性との交際によって、自らが女性であることを受け入れるようになり、現在は女性として生活している。統計的に、思春期前の子供が訴える「性別への違和感」は、73〜88%の割合で大人になるまでに解消することが分かっている。それほどまでに、子供の性意識は揺れ動きやすいのだ。
 ネットや漫画、ドラマなどで性的少数者が頻繁に扱われるようになり、日本でも、若年層に顕著な影響が表れてきた。名古屋市の調査によると、40代以上の女性では、性的少数者と自認する割合が0・2〜0・8%だったのに対して、18〜29歳の女性では8%と10倍以上に増えている。この多くは、生まれながらというよりは、文化的・社会的な影響で性意識が混乱した可能性が高いだろう。
 2017年には西日本で、性転換手術をしたのちに「思い込みだった」と気づいた人が、元の性別に戻すことを認められた判決があった。問題は、後で思い込みと気づいても、既に生殖機能が失われており、永遠に元の人生を取り戻すことができないことだ。小中学生に「多様な性」教育を実施することには、こうしたリスクが伴うことを警告しなければならない。
 そもそも「クラスに2〜3人」の根拠となった電通調査の信頼性は揺らいでいる。名古屋市や国の研究機関の調査では「LGBTは人口の1・6〜2・7%」で、同性愛者もトランスジェンダーも、それぞれ人口の1%未満だった。地方のある小学校では、自ら当事者だと訴える子供がいないのに、養護教諭が電通調査を盾に「告白できていないだけだ」と主張。当事者を招いた授業の導入を盛んに働きかけている。電通の罪は重い。
 同性婚を合法化した台湾ですら、義務教育で性的少数者について教えることは国民投票で否決した。これはキリスト教をはじめとする宗教団体が結束して反対活動を進めた成果である。日本での行き過ぎた教育に歯止めをかけるためにも、しっかりとした倫理観をもった宗教が一定の役割を果たす必要があるだろう。
(2019年8月10日付 754号掲載)