「同性婚」に翻弄されるメソジスト

宗教で読み解く世界情勢(41)
平和政策研究所研究コーディネーター 小笠原員利

 2月23日から26日にかけて、米国プロテスタント第2位の信者数を誇る合同メソジスト教会(UMC)が特別総会を開いた。そのテーマは「同性婚」。一般的に米国のプロテスタントは、同性婚に否定的な保守派(南部バプテストなど)と肯定的な主流派(米国聖公会、長老派など)とに大別される。しかし、UMCは主流派プロテスタントでありながら、同性婚に否定的な教義を維持していることで知られていた。
 ただ、2015年の全米同性婚合法化を経て、UMC内でも同性婚容認のリベラル派が徐々に勢いを増してきた。聖職者の中からも、自ら同性愛者だとカミングアウトする者も現れている。そうした中で実施された今回の特別総会では、同性婚容認派と同性婚に厳しい従来の方針を支持する保守派との間で、激しい主導権争いが繰り広げられることとなった。
 熱のこもった議論が4日間にわたって続き、最終的には保守派が483票対384票の僅差で勝利をおさめた。その結果、同性婚を容認せず、同性愛者への聖職授任も認めないというUMCの伝統的な立場が維持された。
 今回の特別総会で存在感を示したのは、全体の3割を占めるアフリカの代表団だ。UMCの信者数は全世界で1300万人弱だが、トップの米国(680万人)に迫る勢いで急速に教勢を伸ばしているのがアフリカ(575万人)であり、彼らのほとんどが保守的な立場をとっている。今回の保守派の勝利は、同性婚をめぐって混乱状態にある米国教会から、成長の活力と自信に満ちあふれるアフリカ教会へと、UMCの重心が移りつつあることを示す象徴的な出来事でもあった。
 当然のことながら、米国内のリベラル派には大きな不満が残り、UMCを離脱する教会も出てくるものと予想されている。実際に評決の際には、保守派による歓喜の声とともに、「ノー!」「差別はやめろ!」といったリベラル派の悲鳴や怒号が飛び交った。
 仮にUMCが分裂し、米国内でリベラル派教会が独立する事態になった場合、両者の運命はどのように分かれていくだろうか。一見すると、同性婚容認が大勢となりつつある米国社会で未来があるのはリベラル派のように見える。確かに『ギャザーリング教会』のように、同性愛者に寛容な姿勢を示しつつ急速に発展を遂げる若い教会もないわけではない。しかし、2016年に公表されたデービッド・ハスケルらによる研究が正しいとすれば、リベラル派の未来には一抹の不安が漂う。
 ハスケルらがカナダ・オンタリオ州で実施した調査によると、主流プロテスタント教会のうちで信者数が順調に増加しているのは、むしろ聖書に忠実な保守的神学を維持する教会だった。具体的には、成長する教会の聖職者の100%と信徒の90%が、「神は祈りに応えて奇跡をおこす」と信じるのに対して、衰退している教会では信徒の80%、聖職者にいたってはわずか40%しか信じていない。また、聖書を毎日読む聖職者の割合も、成長する教会は71%、衰退する教会では19%と大きな差が出た。
 聖書や教義を大切にする姿勢は、当然ながら伝道への意欲に直結する。成長する教会の聖職者は全員が「非クリスチャンをクリスチャンにすること(伝道)は非常に重要だ」という意見に賛同するが、衰退する教会の聖職者は、わずか50%しか支持しなかった。
 実際に、米国キリスト教の教勢が全体的に低下傾向にあるなか、落ち込みが激しいのは保守派ではなく、リベラルな主流派教会である。聖公会や長老派は高齢化も深刻で、信者数の減少で閉鎖に追い込まれる教会も少なくない。UMC内のリベラル派も、同性愛者の権利擁護には熱心だが、本来の仕事である宣教活動にどの程度コミットしているか、はなはだ心もとないのが現実だ。
 そうした観点からリベラル派の離脱は、むしろUMCの発展にとって好ましいという意見もある。教義、主張が明確になり、教会内部の一体感が強まることで、宣教への意欲も高まるというのだ。保守的なアフリカ教会の隆盛をみれば、その予想にも一定の説得力がある。
 もちろん、個別の教会が教会資産を維持したままでUMCを離脱するには、その教会内の3分の2の賛成が必要であるため、実際に大規模な分裂が起こるかどうかは不明である。
 今回の評決で全てが終わったわけではないが、同性婚をめぐる賛否はUMCの中に確実に剣を投げ込んだ。神の意思が何であり、神の愛と恩恵を示す正しい道がどこにあるのか、真剣な祈りと議論の日々は続いていく。
(2019年3月10日付749号掲載)