先端技術で自然を保護・再生

2018年10月10日付 744号

 隈研吾氏が設計した新国立競技場には、CLT材が使われている。CLTはクロス・ラミネーティッド・ティンバーの略称で、ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した建材。厚みのある大きな板で、建築の構造材の他、土木用材、家具などにも使用されている。今CLT材の活用が、地方創生のツールとして注目されている。
 戦後、植林した針葉樹林が成熟期を迎えながら海外の安価な木材に押され、日本の林業は衰退し、それが中山間地の過疎化の大きな原因にもなっている。森林の年間成長量に対する使用量は、ドイツが八割、フィンランドが六割なのに比べ、日本はわずか二割で、そのため山林が荒廃している。

CLTで林業再生
 CLTの技術は一九九五年頃からオーストリアを中心に発展し、現在では、イギリスやスイス、イタリアなどヨーロッパ各国で様々な建築物に利用されている。カナダやアメリカ、オーストラリアでもCLTを使った高層建築が建てられ、各国で急速に広がっている。特に、木材の断熱性と壁式構造の特性を生かして戸建て住宅の他、中層建築物の共同住宅、高齢者福祉施設の居住部分、ホテルの客室などに用いられる例が多い。
 鉄やコンクリートに比べ木は高い断熱効果、湿度の調整機能、ぬくもりや弾性があり、音や紫外線を吸収して、リフレッシュや鎮静効果もある。木製の教室では子供たちの学力が向上することも指摘されている。軽量のため地盤工事も安い。心配されるのは耐火性だが、不燃加工の進歩で表面が燃えるだけで延焼はしない。
 CLTで木の表面を見えるようにすると、木目や木の肌触りを感じる心地のいい空間が生まれる。また、木材は持続可能な循環型資源であり、二酸化炭素の排出削減にもつながる。また、工場内で一部の材料を組み立ててから現場に搬入するプレハブ化で工期が短縮され、接合具がシンプルなので熟練工でなくとも施工できる。
 日本では二〇一六年にCLT関連の建築基準法告示が公布・施行され、CLTの一般利用がスタートした。それを受け、豊かな森林資源を有している高知県知事と岡山県真庭市長が発起人となり、都会の建築需要に伴い中山間地域と林業がうるおう共生モデルの構築を目指し「CLTで地方創生を実現する首長連合」が設立された。
 高知県では県民を挙げて森林環境の保全に取り組むことを目的に、〇三年に全国に先駆けて森林環境税を導入し、林業の近代化を進めている。真庭市では、製材で発生する木材チップを使って最大出力一万キロワットの「真庭バイオマス発電」を稼働させるなど、エネルギーの自給自足も目指している。
 針葉樹林の豊かな先進国で製材品を輸出していないのは日本だけで、人口八百四十万人のオーストリアは年間一兆三千億円も輸出している。CLTが軌道に乗れば、日本の林業にも希望が見えてこよう。
 補助金に頼らない公民連携の地域活性化で注目されているのが、岩手県紫波町の都市開発事業「オガールプロジェクト」で、オガールは成長を意味する方言「おがる」とフランス語の「駅」(ガール)を組み合わせた造語。
 JR盛岡駅から東北本線で南へ約二十分、紫波中央駅前の町有地約一一ヘクタールを公民連携方式で再生し、ホテルやバレーボール専用体育館、図書館、カフェ、産直施設などをオープン。周辺に造成した宅地は好評で、賑わいが生まれている。
 人口約三万人で農林業が主体の紫波町も少子高齢化に見舞われている。〇七年に始めた同プロジェクトは、都市と農村の結びつきを強め、持続的に発展する豊かで魅力的なまちを目指すもの。町立図書館などには地元産の木が、地域冷暖房には木材チップが使われている。これらが起爆剤になり、人材や経済が町内で循環する割合が向上したという。

要は人づくり
 地方創生やまちづくりで要になるのは人づくりである。経済や技術も人に付いてくる。人のため、地域のためになることに喜んで取り組む人をいかに育てるか、それが学校や地域の大きな課題である。その前に、自分がそんな人になっているか問い直す必要がある。地域社会の重要な構成要素である宗教にも、同じ問いが投げ掛けられている。

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